代表取締役 湯川 剛

創立20周年を迎えて、大きな試練に直面しました。東証1部のT社がテレビのスポットCMを利用した販売形態で低周波治療器の市場に参入してきたのです。これによって我が社は大打撃を被りました。正直なところ、「人を介さずにテレビCMだけで売れるものではない」と最初はあまり大きな問題として捉えていなかったのですが、次第に現場からは「T社製品の販売価格はリズムタッチの半値である為、従来のような売上が上がりません」という報告がされるようになりました。売上も極端に5割減・8割減という状況であれば決断も早かったのですが、2〜3割減程度なら何とか巻き返せるのではないかという淡い期待もあり、何より今日までテレビCM等に莫大な投資をして知名度を築いた「リズムタッチ」というブランドを簡単に捨てる事など出来ません。いずれにしても決断には、なかなかの勇気が必要でした。

当然の事ながら「よし、撤退しよう」と決断に至るまでには多くの葛藤がありました。
撤退に対する勇気を持つ事も将来の自分を鍛える為の試練だと自らに言い聞かせても、実際にそれを受け入れ、承服出来るまでには大変時間が掛かりました。
創立以来、浄水器の販売を手掛け、消費者に受入れて貰えるまでにもかなりの苦難を経験し、そんな中で資金を作り、組織を作り、販路を作り、それなりの資産を作って来られたのは偏に「猪木のリズムタッチ」という商材があったからです。

しかし、このリズムタッチがライバル出現によって窮地に立たされている訳です。
低周波治療器と出会って12年、リズムタッチを発売して11年。小さな会社のコマーシャル出演を承諾してくれたアントニオ猪木さんの協力も、その間の莫大なCM費用の投資も撤退する事で全て「無にする」事になります。
知識として「製品寿命のS字カーブ」があるとは知っていました。導入期から成長期、成長期から成熟期を経て衰退の道を辿り消滅するというその軌道は、S字になぞらえて言われていますが、まさかそれがこんなに早く来るとは思ってもみない事でした。当然、企業はこの衰退期到来の時期を遅らせる為に多くのエネルギーを製品開発に投入している訳ですが、我々のようなベンチャー企業はそんな投資に充てられるヒト・モノ・カネに余裕が無い為に「次なる一手」を出せないまま、一生懸命に構築した低周波治療器市場を他社に奪われる事態となったのです。
もちろん成熟期を迎えないまま、成長期からいきなり衰退期を経た原因の全ては、経営者である私自身のミス以外にありません。撤退の時期を躊躇し、深傷を負わせてしまう事だけは避けなければならない。それが私に残されたせめてもの経営者としての判断でした。

これからどうしたらいいのか。この事態を如何に切り抜ければ良いのか。
「リズムタッチ撤退」で主力商品を失った後、何を主力商品として生きていけばいいのかという現実的な問題を解決しなければなりません。創立20周年を迎えて、大きな課題を突きつけられました。
しかしこの時「中小企業が必死な思いで築いてきた市場を、大企業が資金力と組織力で一気に攻めてくる!!」という事態に対して、不思議な事に私自身はあまり不満や大手企業の横暴だとは思いませんでした。むしろT社の参入に対し「大企業は凄い」と感心すらし、これが市場原理なのだとどこか冷静に見つめていたのです。
そうして私はリズムタッチの市場から撤退する事を決断しました。「潔く」という気持ちであればカッコイイのですが、実際には未練たっぷりの撤退でした。

でも、これからどう生きていけばいいのか・・・

(次回に続く)

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