代表取締役 湯川 剛

浄水器2万台と言えば、一般小売価格で試算すると8億円以上にもなる話です。

勿論、小売価格で見積もった全額が損失となる訳ではありませんが、それでも被災エリア全軒無償で交換するとなれば、その損失額は数億円にも上ります。

弊社は1月決算である為、2月開始の新年度にいきなり数億円の損失計上では、間違いなくその年度は赤字である事を意味します。ましてや販売計画が頓挫した訳ですから、実際にはそれ以上の赤字が予想される状況です。創立25周年の節目に大きく飛躍する事を見込んでの記念事業や株式公開の実現は諦め、それでも被災エリアのユーザー様に対し無償で交換しようというのですから、役員達も簡単に答えが出せる筈がありません。

黙々とハンバーガーを口に頬張りながら全員、一点を見つめていました。

手元のフライドポテトも無くなり、飲み物も無くなった時、私は改めて「どうする?」と幹部に答えを求めました。固く口を閉ざしたままの役員達を見て、私は大変な決断を彼らに強いている事に、少し後悔する思いもありました。

頓挫したキャンペーン分の売上損失だけでも大変な事態なのに、更に最大2万台無償交換な訳ですから、彼らにとってどれ程大きな負担かという事は、火を見るより明らかです。

簡単に反対出来ないのは、それが「善意の行動」から来る損失であるという事。

実際に自身の目で被災地の状況を目の当たりにしている訳ですから、随分と酷な事をしたと思います。
数億円の損失を、しかも年度初めから背負う事と「支援」という言葉の板ばさみ。誰も決断出来ない様子でした。「何とか言えよ。」と内心苛立ちながら、賛成か反対かの決断を迫っていたのは、実は私自身の弱さがそうさせていたのだとも思います。彼らに意見を求める事自体が、「私自身が迷っている」という証しでした。単なる思いつきで口走ってしまったのか。皆に大きな負担を背負わせる事をも考慮しての事だったのか。賛成すれば大きな負担を背負い、反対すれば支援を拒否した罪悪感を背負う。その内だんだん私も訳が分からなくなっていました。

すると役員の1人が「社長が決めて下さい。それに従います。」と言いました。他の役員達もその発言に頼るかのように頷いて、「湯川の決断 = 会社の決断」という結論になりました。提案した私が引っ込める位ならば、最初から言わなければ良かった話です。

「よし、やろう!」

その言葉とは違い、発する声は幾分、自信なさげなものだったかもしれません。
方向性が決まり、それぞれ帰路につくべく席を立った役員達の表情は決して安堵のそれではなく、重く深刻な表情でした。それは大きな負担を背負った瞬間だったからでしょう。

「よし、やろう!」と言った私も、数分間は同じような気分でした。

(次回に続く)

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