代表取締役 湯川 剛

元々、金菫事長の頭には、ロイヤリティーに対する考え方がありませんでした。
「なぜロイヤリティーが必要なのか」ソニーやトヨタのように、世界的知名度の高い会社なら何となく理解できるが、なぜOSGのブランド名に支払わなければならないのか。それが金菫事長の考え方でした。
「1970年の創立来、OSGには30年以上に亘って培われた技術ある。それを無償で渡す訳にはいかない」そういった私の考えをなかなか理解して貰えませんでした。12月の会議でも1月の会議でも決着は着かず、「中国にそのような制度はない」と拒絶する姿勢だったのが、ようやくロイヤリティーの存在は認めるまでになっていましたが、問題は費用。解決は2月の青島会議に持ち越されました。1元で済むならという考えが相手にありました。例えば1万台で1万元。OSG側はとんでもない。これに延々と時間を費やしていたのが青島会議です。

明朝7時の朝食時に昨夜に引き続き、話し合いをする予定であったのですが、私は敢えて出席せず、「帰国してから読んで欲しい」とホテル出発直前に手紙を渡しました。
しかし金菫事長はその場で読むように呉秘書に指示。当然そうなる事は私も予測していました。
大まかな手紙の内容は「ロイヤリティー軽視するのは、OSGの技術を軽視するのと同じ事。ならば合弁会社は解消。OSGの独資会社とし、商品提供のみ協力する」というものでした。約1000人の新年大会の席上で調印式を行なったにも関わらず、我ながら私もぬけぬけと言ったものだと思います。勿論、ここまで腹をくくるに至って実は一睡もせずに考えた事でした。安易な妥協が後々に大きな損失をもたらす事もあるを考えたからです。
「兄弟、すまん」と思う一方、自ら出した厳しい結論を手紙に記しました。勿論、商品供給は行なう予定なので外部から見れば、それ程大きな問題ではない筈です。しかし、もしかすればこの決断が全てを破綻させてしまわないとも限らないのです。特に中国の方は面子を重んじます。それだけに私の心は一転二転。そうこうしている内に明け方を向かえ「ダメな場合は独資」と決断したのです。

帰国後2日目に私の携帯に金菫事長から電話がありました。中国語で何を言っているのかわかりませんが声のトーンからすれば怒っているようにも思えます。私は呉秘書の金菫事長の言葉を通訳するまでのわずかな数秒にも自分の決断が間違っていたのではないかと思っていました。

呉秘書は金菫事長の言葉ですと前置きし「ロイヤリティーは理解した」と私に伝えました。
「今、何といったの?ロイヤリティーを理解したの?それとも理解していないの?」
聞き間違いかと思い、確認したほどです。呉秘書は「理解しました」と改めていい直し、まだ続きがありますと通訳を続けました。
「OSG側の要求額を受け入れるので、合弁会社の解消は撤回して欲しい」私は正直、ホッとしました。
最後に「金菫事長からのメッセージです。兄弟は本当に強気だ。こんな交渉は初めてだ」と。「今回の件で金兄弟に借りが出来ました。これからもよろしくお願いします」こうしてロイヤリティーの問題は解決。

しかしその数ヵ月後、この時の借りを金菫事長に返せる事件が起こりました。

(次回に続く)

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