代表取締役 湯川 剛

「社員を集める」と言っていますが、言葉で言うほど簡単なものではありません。とにかく、無名な会社・狭いオフィス・時代にマッチしない商品・安い給与・限られた募集費・・・、応募に来ない理由を数えれば限りがありません。「社員を集める」から「社員さん、来て下さい」そして「社員様、どうぞ来て下さい。お願いします。」そんな気持ちで新聞広告の限られた予算の中で、人事募集をするのです。書いた原稿用紙を家の仏前に置き、手を合わした日々でした。

それが通じたのか、1名2名と社員さんが集まって来てくれました。季節も厳しい冬から春、そして水に親しむ夏になりました。この数年、夏場になると水道水が特にカルキ臭くなり、公害問題なども社会的な関心事となって、売れる確率が高くなって来ました。

私は自分の会社の社員さんに教育をする訳ですから、熱が入ります。「1000軒訪問すれば、100軒のお客様は必ず聞いてくれる。だからと言って、100軒訪問したとして10軒のお客様が聞いてくれるとは限らない。要するに1000軒訪問すれば、900軒まではゼロだと思ってほしい。」と、貴重な社員さんに毎日厳しい話をしました。毎日100軒訪問してもゼロが続くと辞めるかもしれない。せっかく集まって貰った貴重な社員さんに、辞めるかもしれないような過酷な事を言っているのですから大変矛盾を感じました。しかし当時はこうして1軒1軒「浄水器とは何か」を説明しなければならない状態でした。ただ、メーカーW社は百貨店や生協の外商部で数百台単位で販売すると聞き、自分なりに1軒1軒の訪問販売がいいのかという疑問も持っていました。

しかしメーカーW社のように組織で動く程の規模もなく、自分の身の丈に合った商売をしなくてはなりません。そこで浄水器を扱って頂けそうなお店を探し、取次店となって貰いました。堺市の大きな団地の近くの商店街で金物屋・酒屋などに取次店となって頂き、チラシを作りました。新聞チラシで配布すれば手間がかかりませんが、そんな費用もないので団地1軒1軒に手配りしました。しかしそれだけで取次店に注文の電話がかかって来ることは皆無です。そこで取次店の近くを店主の許可を貰って、回る事になりました。「今日は100軒回ってゼロでした。」と午前と終日の2回報告を店主さんにすると、何日か目には「オレも一緒に回ってあげよう」と言って頂けるお店もありました。すると効果は全く違うのです。やはりお店の信用や店主さんの信頼が、商品以上のチカラを発揮するのです。さらに店主さんに私達の態度などを大変気に入っていただき、仲間の店主さんを積極的に紹介して頂きました。

せっかく集まって貰った社員さんにとっても、厳しい訪問販売から取次店販売に切り替わったことで、仕事は少しは楽な方法で進められるようになりました。あっという間にPLの花火大会の8月になり、1周年を迎えたのです。1年前には考えもつかない事でした。1年前にPLの花火大会を見ていた頃は、化粧品の販売会社。夢を語った5人でしたが、ひとりは結婚で退社、ひとりは父親の転勤で東京へ、ひとりは化粧品販売、そして残った私は全く新しい仲間と浄水器という考えもしなかった商品を扱っていたのです。わずか数ヶ月で崩壊した化粧品会社。社長ひとりでの真冬の訪問販売。目まぐるしく過ぎる1年も終わり、会社は倒産せず生き残っていました。そして私も1年前よりは少しだけ、逞しくなって生き残っていました。

取次店システムは思いのほか成功し、社員も10名程になっていました。
そんな時、メーカーW社から浜松本社に来るようにと言われました。

(次回に続く)

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