代表取締役 湯川 剛

何度も繰り返しの話になりますが、この時期「第2次衛生部ショック」を抜きに中国ビジネスを語る事は出来ませんので改めてお話します。何故、衛生部ショックが起こったのか。
原因は大きく2つあります。
1つは、中国でのアルカリイオン整水器の製品基準が未整備であった為です。
2つ目は2000年に起こった第1次衛生部ショックを放置していた事です。
2000年当時は、OSGが中国進出していないので全く関知していませんでしたが、第2次衛生部ショック(2005年)は、中国進出2年目の出来事でした。
我々が積極的に動かなければ同じ事を繰り返すとの事で、中国衛生部・中国保健協会などを日本に招聘し、管轄行政である厚生省への訪問等は既に述べています。またその後の中国国内における日中水関連法律規正学術シンポジウム(06年7月 北京)や電解整水器標準発表や日中功能水シンポジウム(07年3月・11月)の活動は、前回(303回)で述べています。

この電解整水器標準規格を作る際に、とんでもない事が判明しました。それは一部の中国製アルカリイオン整水器の電解槽から本来、出てはいけない物質が見つかったという事でした。
南京に本社がある大脈社は業界においては大手健康関連販売会社で、日中功能水シンポジウムにおいても重要な立場にある企業です。天然社とはライバル関係にあります。この問題で大脈社は密かに全製品を調査しました。その結果、全品にその物質が検出されるではなく、一部の製品のみと判明しました。しかし例え一部であれ、その原因を追求しなくてはなりません。

08年1月11日。私達、中国電解槽基準制定会議のメンバーは西安にいました。
会議の場所を西安にしたのは、電解槽の部品である電極板業者が多くあるためです。
制定会議のメンバーは電極板業者を視察する目的もありました。基準制定会議の考えは「日本基準」を念頭に入れて行なおうとしていましたが中国電極板メーカーはそれに反発し、中国生産基準でもいけるとの見解でした。ところが大脈社の問題が発覚した訳です。そこで大脈社に電極板部品を提供しているA業者の視察が行なわれました。当然大脈社はA業者に激怒していました。
日本製品を扱っている天然社から見ればライバルである大脈社に対し誹謗中傷をして自社製品が優位であるようにするところでしたが、業界全体に影響を与えると考えたのか、批判などしませんでした。幸いに大脈社の問題の製品は、出荷前に発見され水際で止めたという事です。
もしこれが市場に出回っていたならば第3次衛生部ショックどころか、中国市場では永遠にアルカリイオン整水器の市場が構築されないまま、OSGも中国から撤退しなければならないところでした。原因は日本製電解槽の場合、電極板が白金メッキを使用し、メッキ工程も飲料用専門メッキで主に生産されていましたが、A業者の場合、酸化ルテニウムメッキの焼成メッキで日本では飲料用には使用していないメッキでした。しかも有害物質を含む工業用メッキと飲料用メッキを共用設備で行なっており、これが出てはならない物質の原因になったと思われました。日本でも共用設備で行なう場合もありますが、その場合には完全洗浄を実施した後に行なわれる訳で、中国のずさんなメッキ管理がA業者訪問によって発見された訳です。

皆さんも10年前の事で記憶にはないかもしれませんが、この年の08年9月に中国大手乳製品メーカーが製造した粉ミルクに、結石などの病気を引き起こす化学物質メラミンが混入し、粉ミルクを飲んだ乳児1人が腎臓結石で死亡したほか、5万4000人の乳児が腎臓結石にかかり医療機関で治療を受けた事件があり、当時、日本でもマスコミが大々的に取上げました。この事件の原因は、酪農家が絞った牛乳を水で増量し、そのために不足したたんぱく質の比率を高めるため故意に有害物質メラミンを混入したことによるといわれています。この事件以降、中国人が中国の粉ミルクを使用する事をためらい、10年経った今でも富裕層は日本製の粉ミルクを購入します。

中国の競争主義が品質より価格を優先します。安全等の概念がない訳ではないですが、とにかく安くする事で市場に参入します。安全は二の次です。今回の中国電解槽基準制定会議はそういう意味においては、意義のある会議でありました。

大脈社は、中国製電解槽から安全な日本製に切り替える為にと、欧愛水基と取引したいという申し込みがありました。大脈社は天然社のライバル企業なので取引には慎重な態度を取っていましたが、業界全体の事を考え、アドバイスも含め前向きに検討しました。
取引するにあたり大脈社は、製品デザイン等の提案もして欲しいとの事で十数回の会議を行ないましたが、結果的には欧愛水基とは取引に至らず、安価な中国製電解槽を導入した上、ちゃっかりと欧愛水基提案のデザインは採用していました。

さて、その後の大脈社はどのようになったか。
そのような会社なので一時は繁栄、業界の大手と言われました。しかし大脈社のアルカリイオン整水器は不具合続きで売上が低下。その結果、他社に買収され、経営者は現在カナダに住んでいます。

追記
OSGは中国に進出する事で、いろいろなアイディアを模倣されたり、技術も無断で使われています。中国進出前に多くの日本人経営者から「湯川さん。中国はパクリの国だからリスクの事を考えれば中国に進出しない方がいい」と貴重な意見を進出前の03年頃に頂きました。
しかし私は「中国で技術を盗まれるリスクよりも、中国に進出しないリスクの方が問題である」という考えです。毎日、新聞を開けば「中国」という文字を見ない日はありません。私達の生活の中に中国に関わる製品が多く使用されています。

政治的にはいろいろな摩擦があります。経済においても政経分離といえ無関係ではありません。カントリーリスクを背負いながら、それでも中国に進出するのは魅力のある市場であり人々がそこにいるからです。文化・スポーツの交流もいろいろありますが、アジアにおいて中国抜きに語れないでしょう。03年の中国進出から15年が経ちました。金型はいまや日本より技術は優れ、デザイン力も日本は負けてしまいそうです。


(次回に続く)

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