代表取締役 湯川 剛

決算説明会においても、会長になって数回は出席しましたが「私がいるとやりにくいだろう」と気づくと出席しなくなっていました。
経営とは実践の中で学ぶことが多々あります。書物から学ぶ事、他人の経験から知る事も勿論多くありますが、一番の習得はリアルな経営を体得する事に勝るものはありません。自ら頭を打ち、胸が張り裂けるような経験をしてこそ「真の経営」だと思っています。

私の考えの中に「頼る人がいれば、真の力が発揮できない」という持論があります。
人に頼る事を否定しているのではありません。私は今日まで多くの人の協力なくして、ここまで辿り着く事は出来なかっただろうと思っています。「頼る人がいれば、真の力が発揮できない」という言葉は誤解を与えるかもしれませんが、トップに立つ人達、例えば経営陣や部署責任者だけしか出来ない事があります。このような立場の人達は自分の決断に迫られる場合があります。多くの人達の意見は聞きますが、最後は自分一人で決めなければなりません。人に頼っていてはダメなのです。

仮に、社長と副社長がいたとしましょう。
二人の責任の重さや問題意識等を数字で表すことはなかなか難しいですが、たぶん外部から見れば社長の責任の重さや問題意識、決断するエネルギーが100であれば、副社長は80くらいと思われがちです。しかし私から言えば「社長100」に対し、副社長のエネルギーは「50~60」程度です。それ程、トップに立つという事は自覚がそうさせるのです。
逆に言えば誰かが上に居れば、責任の重さや問題意識は半減に近い状況になります。
人間は「依存心」を持つとその瞬間から本来持っているチカラを発揮しなくなります。
その図式は「会長と社長」の場合にも起こる現象だと思っています。「社長の立場」を考慮した時、私が取った「会長・社長完全分離」論は間違っていないと思っていました。

少し話を戻します。
大手コンビニのカリスマ会長は会長職でありながら、最前線で指揮を執っています。
この姿に、当時は私に迷いが出てきました。「私自身もOSGが直面している問題に介入すべきではないか」という迷いです。
「社長は社長としての立場で問題に取り組み、会長は会長の立場で同じようにその問題解決に動けばいいのではないか」という理屈上は分かっていても、やはり私が介入すれば先程の「社長・副社長」のような関係になるのではないか。
そんな「迷い」を抱えている頃、親しくしているアナリストから「どうして決算説明会に顔を出さないのか」を問われたので「会長・社長完全分離論」の持論を述べたところ、彼は「それはサラリーマン社長が会長になった時の対応です。会長は創業者ですよ」と言われました。7年目にして、そのアナリストの言葉にも考えさせられました。

断片的ではありましたが数か月間、私はまるで「迷路」に迷い込んだようでした。私としては珍しい事です。「迷う」という事は、どちらの考えにも真理があるからです。

14年の秋頃、ようやく気持ちに整理がつきました。
「従来通り、私はOSG本体から1歩引き、OSGの未来ビジネスに全力を投入する」。
例えOSG本体に問題を抱えても、それを乗り切る事を経験させようと思いました。
「経験が最大の教育である」「依存心が本来のチカラを発揮しない」と、その日の日記に記されてあります。
ある事業部が低迷し予算通りの成果が出なくとも、他の部署がそれをカバー出来ているのであればいいのではないか。株主の皆様に予定通りの配当も出しているし、そうして奮闘している経営陣に「月1度の役員会に厳しい指摘」をしながら、全面的に後方支援する事こそが私の立場であると7年目にして迷い、そして7年目にして改めて気持ちを整理しました。

多くの社員さんの生活を守るのが経営陣の使命です。また多くの取引先様や協力関係者の皆さんに安心してお取引頂くのが経営陣の使命です。更に多くの株主様から経営を任されている事も経営陣の使命です。
もし万が一、経営陣が会社を私物化したり、社長がトップとしての責任感の欠如を周囲から指摘されたり、最悪経営が赤字に陥ったりしない限り、この「会長・社長完全分離」を貫こうと思いました。問題解決に多少の時間が掛かろうとも「自ら体験する尊さ」の方が長い目で見れば企業にとっても重要であると判断しました。

 

【後記】
今から4年前の16年に私が個人で保有しているOSG株式の約25%に当たる10万株を全社員さんに無償譲渡しました。
当時の株価は約600円~700円台でしょうか。
無償譲渡の価値は約6000万~7000万円だったと思います。
役員会の席上で「創立50周年を迎える2020年には、必ず株価を1000円以上までもっていき、無償譲渡株の価値が1億円位になったら嬉しい」と言ったものです。

実は上場以来、OSGは一度も増資をしていません。むしろ「10株につき1株をつける株式分割」したり、時には株価が安いと「自社株買い」をしたものです。上場しながら増資をしないなら上場した意味がありませが、どうしても株価がOSG価値の実態と合わないという私の強い思いが「増資」を踏み止まらせていたのです。上場してからも厳しい経済情勢はありましたが、上場会社でありながら直接金融はせず、もっぱら銀行借り入れの間接金融や遊休不動産の売却で資金運用をしていました。

「創立50周年には無償譲渡の価値は1億円」の約束が今年という事です。
先日OSGは上場以来初めて「自社株一部を処分」をしました。
その日の最終株価が1,959円でした。

10万株の価値を全社員さんの頑張りで、この4年間で倍以上になりました。
「創立50周年には無償譲渡価値を1億円」に、更に「以上」の価値を付けて約束は果たしました。

今後は更にその価値が「4倍」「5倍」になり株主様、投資家の皆さんと一緒に喜びを共有する様に頑張りたいと思います。

(次回に続く)

ご意見、ご感想は下記まで
support@osg-nandemonet.co.jp