代表取締役 湯川 剛

早速ニューヨーク行きのツアーに参加。初めてのニューヨークに到着したのは雨の夜でした。
ガイドについてくれた日本人男性の挨拶が、とても刺激的でした。
「激動のニューヨークへようこそ!」普通、ガイドとは思えないドスの利いた威圧的な言い方でした。それから彼はこう続けました。
「ニューヨークを見ずしてアメリカを語るな。ニューヨークだけを見てアメリカを語るな。」
今でも忘れられない一言です。
自己紹介によると彼は山形県出身で名前を後藤さん。ガイドはアルバイトで、本職は芸術家だとの事。後藤さんは殆ど笑わない人でした。
ホテルに到着するなり後藤さんは「15分間位はバーにいるので、私に用事がある人はどうぞ。」との事でしたので、荷物を部屋に置くとすぐにバーに向かいました。ツアー客は全てカップル。私としては、「頼れるのは後藤さんだけ」という心境でした。ツアー名簿から後藤さんは、私がロスから急遽加わった事を知っていました。
「いったいニューヨークに何をしに来たのか」と質問されたので、素直に「リズムタッチを販売する目的で来た」と話ました。すると「アンタは、本当に社長なのか」「こんな社長の下で働く社員は可哀想だ」「ファッションも田舎者そのものだ」とこっぴどく言われました。

「あなたの夢は何か」の問いに、自分は業界日本一になる事が夢だと答えると、「それは会社の目標だろう」と言われました。しかし私はすぐさま反論し、「私にとって個人の夢も会社の夢も同じだ」というと、「バカか」とにべもなく言われました。「こういう社長が会社をダメにするんだ」といい、当然、販売には協力しないとの事。折角ニューヨークにきたのだから、ニューヨークの文化に触れろ!といい、別れ際に「とにかく、その服装でニューヨークを歩くと、まるでおのぼりさんだ。同じ日本人として恥ずかしい。」と言われました。今でもそうですが、昔からファッション感覚がゼロで、又そんな事に気が行く余裕も興味もありませんでした。

ともあれツアー客に対してガイドが言うべき言葉ではありませんが、そう言われた当の私は、不思議と腹が立ちませんでした。キツい言葉ではありましたが、私には新鮮に感じました。旅行社にクレームをつけてもいい。私は単なるアルバイトだからいつ辞めてもいい。だけど君の為に言っているんだ。そんな言葉を素直に受け入れていました。
「では、服を選んで欲しい」というと「ついて来い!」と、ジーンズショップに連れて行かれました。そこで生まれて初めてジーンズとジャケット、スニーカーを買いました。

翌日より私はニューヨーク単独行動です。地下鉄に乗り3日間、マンハッタンを1人歩き回りました。後藤さんは他のツアー客を連れて観光に出ていましたが、私は後藤さんと出会ったあの夜から1度も会いませんでした。心のどこかで避けていた部分があったのかもしれません。3日目の夜、部屋に戻るとドアの下にメモがありました。
「この3日間どうしているの?明日、ウチにうどんでも食べに来ないか」
後藤さんからのメッセージでした。

余分な事ですが、この後藤さんとの出会いがきっかけとなって、それ以降、私は「個人の夢は?」と問われると、「映画を1本作ることです」と答えるようになりました。

(次回に続く)

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