代表取締役 湯川 剛

1986年はそれまでの15年間とは違い、将来へ向けての布石を打つスタートの年でもありました。前回の「大卒新卒社員採用の導入」の話もそうです。今回はOSG教材(自己啓発テキスト)についてのエピソードをお話します。

実はこの自己啓発テキストの原型は、2年前の1984年に誕生しました。
元々の目的はOSG社員教育の教材として作られたのではありません。
どちらかと言えば、私のプライベート向けに作成したものです。要するに「世界に1冊だけの本」として、私の子供に渡す予定で作っていました。
1年中仕事に追われている私は、言わば「家庭を顧みず」的な生活を過ごしていましたので、父親らしい事は一切行なっていませんでした。当然の事ながら人並みに親らしい事をやらなければいけない気持ちがあった訳ですが、私を取り巻く時流がその余裕を与えてくれませんでした。正直なところ、他人の子供である社員さんに全神経を使っていたという具合です。そんな中で日頃の罪滅ぼしのつもりで密かに「世界に1冊だけの本」を計画していました。印刷や製本等に掛かるコストを考えると、「1冊:50万円」単価の本であったかもしれません。タイトルは「天まで昇れ、大きくなれ」でした。

私の人生哲学の中に「人は与えられた生い立ち・環境の中でベストに生きる事が、その人にとって一番尊く素晴らしい人生だ」と思っています。人それぞれ、生い立ちや環境は違います。経済的に豊かな家庭に生まれた人もいれば、その逆もあるでしょう。丈夫に生まれ育った人もいれば、ハンディキャップを背負ってこの世に生まれた方もいるでしょう。
芥川龍之介は「人間は遺伝と偶然、そして環境と意思による産物だ」と言っています。まさにその通りです。遺伝と偶然は変えられないものなら受け入れて、そして環境と意思は変えられるものであるなら良い方向に変えていけば良い訳です。例えば三重苦のヘレン・ケラー女史は、与えられた生い立ち・環境の中で、多くの人々に感動と生きる勇気を与えました。ヘレン・ケラー女史のように多くの方に与えるような影響力はないかもしれませんが、その人の持っている潜在能力を引き出せれば、それは結果的に「素晴らしい人生だ」と言えると思います。

「二度と地球上に戻って来ない尊い人生だと気づかせ、自分の潜在能力を発揮させる」そんな1冊の本は作れないものかと思いました。私の生い立ちと環境は当然、私の息子と言えども同じではありません。私の潜在能力と子供の潜在能力との違いもあります。息子は息子なりにベストを尽くし、潜在能力を発揮出来れば、それは素晴らしい人生だと思うのです。そんな想いを込めて、多忙の中わずかな時間を探して書き溜めていました。約3年は掛かったと思います。

「世界中で1冊の本」のゲラ刷りを大変お世話になっている税理士先生のところに持って行きました。この先生は若くして独立した私の事を心配してされたのだと思いますが、必ず私の提案や話には反論され説教されます。私の話に対して肯定的に受け入れて貰える事は、皆無です。しかし私はこの先生を遠ざける事はしませんでした。私が気付かない別の見方から指摘して頂ける事は、とても大事な事です。製本する目的と内容に対して、何と初めて褒めて頂けました。
「湯川君、これは良い事だ」と言われ、私は拍子抜けしました。何か文句など言われると思い、訪問したのですが予期せぬ事でした。正直、嬉しくなりました。
でもその嬉しい気持ちは、その後の先生の言葉で一瞬にして消し去られてしまいました。

「湯川君は嘘つきやなぁ」「えっ!?」

(次回に続く)

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