代表取締役 湯川 剛

電話の相手は、オムコの幹部社員からでした。

「夜分すみません。24日は大変失礼しました。あれから債権者の方々と話し合いました。
何とかOSGさんで面倒見てもらえないでしょうか。」

私は「債権者の方、特に部品業者の皆さんも同じ意見なのですか」と聞き返しました。

そうするとむしろ部品業者の皆さん方が「何とかOSGさんで再建してほしい」と望んでいらっしゃるとの事でした。私は深く考えもせず「分かりました」と応え、年が明けてから会う事と残られた社員の方々に頑張って欲しいとのメッセージをその幹部社員の方に伝えました。

OSGは毎年、28日が一般社員さんの仕事納めで、29日の午前中は幹部会議が開催されます。幹部にとっての仕事納めになる訳です。幹部会議の席上で、オムコからの話を伝えました。
私としては引受けるつもりだと幹部に言いました。株式公開前にリスクのある事を引受けるには、かなりの抵抗も幹部の中にはあったと思いますが、私は「これは、お金で時間を買う事だ」と伝えました。現在のOSGがオムコの技術や開発力と同等の能力を得るには、おそらく10年はかかるかも知れない。資金を使う事は大きなリスクだが、10年の時間を買うと思って投資をしようと伝えました。

午後から私は取引銀行3行に年末の挨拶に訪れ、支社長らとも話しの中でオムコ買収の資金手当てをお願いする事にしました。

午前中の幹部会議での発言や午後からの銀行での融資依頼をしながら、私の心は「間違いなく、これでいいのか」と心の隅で自問自答を繰り返していました。大きな決断であり、この道が正しいのかは、その答えは誰もわからないのです。
倒産するような会社には、いくら立派な技術や実績があったとしても、市場はそれを評価するどころか、むしろOSGにとって大きな負担となり、株式公開に向けての大きな足かせになるのではないか。それなのに自分は何故、引受けるのか。
引受ける要因が、新年を不安に迎えるオムコ社員や販売店の人々を助けるなど安易なセンチメンタルな気持ちでやっているのならば、それこそ我がOSG社員さんまでもが不幸に引き込むのではないかと、急に不安な気持ちになってきた訳です。
誰か1人でも「その決断は大丈夫だ」と言ってくれる人はいないかと思いました。

そこで株式公開の指導をして頂いている監査法人トーマツのN先生を訪ねようと思いました。
すっかり暗くなった夕刻に御堂筋近くにある監査法人トーマツが入居しているビルに行きました。1人で決断してしまう事に迷う自分がそこにいました。
突然の訪問を「年末の挨拶」と言い、私が尊敬するN先生に面談を依頼しました。
年末の挨拶もそこそこに、私はオムコ再建のいままでの経緯を伝え、決断に迷っている現在の心境を正直に伝えました。
「何故、買収するのか」を中心に、その事によるリスクなども話し合いました。
その結果、N先生は「無責任に聞こえるかもしれないが、最後は社長が決断するしかないのです」との事でした。

これは先生の言う通りだ。最後は全て自分が決めるのだ。全て自分が責任をとって、この決断に自信を持って前に進もうと1人で師走の御堂筋を歩いて帰りました。

あと2日で、1999年も終わりです。

(次回に続く)

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