代表取締役 湯川 剛

そこで私は保証人を探しました。しかし社会に出てわずか5年、そのような人脈は限られていました。名前は差し控えますが、ある保証人の方を候補として信用組合弘容に伝えたところ、この人なら考えてもいい、との事でした。早速その方(A先生)にお願いに行きました。A先生は「いい勉強をしたと思って、会社を整理しなさい」との事で、保証人の件を断られました。私は何度もお願いしました。わずかな期間でも誕生させた会社を、このままで終焉させる訳にはいかなかったのです。A先生は「今から東京に出張」と言われましたが、新大阪駅までついていきました。A先生は完全に無視されていました。今から考えればご迷惑をかけたと思います。そして中央改札の入り口に行こうとされた時、私は思わず土下座をしてしまったのです。

先生は大変驚かれ、「やめろ」と言われました。そして先生自身がたぶん恥ずかしい気持ちになられたのか「分かった」と返事されました。その間、わずか数十秒の出来事だったと思います。

しかし土下座しながら私は、とんでもない事を考えていました。それはA先生にお願いをしながら、心の中では「この先生には絶対に頼まない」と思っていた事です。先生に嫌な思いをお願いをしながら、先生に反発していたのです。本来であれば、先生は無視してそのまま改札口に行けば良かったのです。土下座は私自身の意思でやっているのです。なのに「こんな思いまでさせて…」と逆恨みのような気持ちを持っていたのでした。その証拠に、数日後に来なさいと言われながら行かず、お金の工面に走るのでした。後年になって考えると、自分の狭い器量の一面を見せた場面でした。若さ故とはいえ、恥ずかしい限りです。

今は新大阪駅タクシー降り場から構内に入ると「千成びょうたん」のオブジェがありますが、当時は中央改札口の前にありました。その「千成びょうたん」の真横での土下座であったと思います。私はそれ以降、新大阪駅で人と待ち合わせをする時、絶対に「千成びょうたん」の前で人と待ち合わせをする事はありませんでした。ご存知のように「千成びょうたん」は、待ち合わせ場所の目印として使われるのですが、私には重く暗い思い出しかないのです。

(次回に続く)

ご意見、ご感想は下記まで
support@osg-nandemonet.co.jp