代表取締役 湯川 剛

新日本プロレスリング鰍ヘ1972年に創立。つまりこの2002年は新日プロにとって創立30周年になる訳です。日経ビジネスが1990年に日本の企業の平均寿命、すなわち日本企業の寿命を30年と発表し、当時話題となりましたが、浮き沈みの激しいマット業界において、唯一、新日プロだけが創業者率いるプロレス団体として30年の歴史を持っていました。

7月1日に新日プロの役員懇談会の中で、5年後の35周年に向かって明確な目標を掲げて、進めていこうという事になりました。そのタイトルが「ダッシュ35」です。
そして7月27日(土)にダッシュ35の全体会議が赤坂プリンスホテルにて開催。
参加者は私以外に役員7名、社員32名、幹部選手6名の計45名が参加しました。
会議の議題は、
課題@「新日本プロレスは組織か、それとも単なる集団か。またその根拠を述べよ。」
課題A「新日本プロレスが素晴らしいと思える項目を10項目以上述べよ。」
課題B「新日本プロレスが創業35周年の売上高●●億企業にするにはどうするべきか。 またそれを阻害するものは何か。」
これらの課題に対し、午前11時から夕方5時までの6時間に渡り、全員で討議しました。

それぞれの部署の分科会を開催する事を決めました。
9月に入り10.14東京ドーム大会に向けて、第1回全体会議を開催。
更に9月30日。「収益低下の状況下において、これまで役員の高給にメスを入れない体質こそ崩壊の道を辿る」と、大幅な役員削減を実施し、危機状態からの脱出を訴えました。
幹部自らが己を戒め、自浄する事が出来ない体質こそ、企業を消滅させるのです。
当然の事ながら多くの役員から抵抗する発言が飛び交いましたが、私は断固拒否しました。

10月、東京ドーム大会の反省会を開催。
10月13日(日)、正式に新日本プロレス創立35周年「ダッシュ35」キックオフ。
翌14日(月)には、役員の給与カットに続く厳しい指示をしました。
それは1.4東京ドーム大会に向けて、トップから一般社員に至るまで全社員でチケット販売を行なうというものでした。これには想像以上の反発がありました。中でもトップレスラーとして華々しく活躍した過去を持つ役員達ほど、全く協力的ではなかったのです。

意を決し、私は発言しました。
「新日プロが花形番組としてゴールデンタイムを席巻した時代は過去の話です。人気レスラーの活躍によって、チケット販売の店頭窓口で売れた時代もあったでしょう。一般の企業で例えれば、ヒット商品誕生で営業の努力なしでも売れたのと同じです。でも今は違う。今こそ全社員が一丸となって営業努力を行ない、1枚1枚売らなければならないのが現状です。」
会議は紛糾。役員会では私に対し、社外役員である大手プロダクション会長から嫌味や非難を浴びました。恐らく私のやり方に反発心を抱く役員達が、その会長に泣きついたのでしょう。しかし潰れるのは新日プロなのです。

11月には1.4東京ドーム大会に向けて、延べ11回の勉強会を開催。内容をここに記す事は出来ませんが、途中から全レスラーも参加し、あらゆる事を話し合いました。
その結果、新日プロとして大きな山場となった10.14と1.4の東京ドーム大会は無事乗り切る事ができ、同時に約束の6ヶ月間が終了しました。
猪木さんが「湯川さんのおかげで倒産を回避できた」と言ってくれましたが、そこには幹部の大幅な給料カットや役員の大幅削減など厳しい対応を行なった事、また幹部はじめ全社員及び全レスラーが我慢して頑張ってくれた事が最大のチカラだったと思います。

私はこの6ヶ月間、土曜・日曜日を返上してOSG以外の会社の経営を外部から見ました。
結果的には大変な経験をさせて貰った訳です。業種に関わらず全ての企業は崩壊する原因を持ち合わせている。OSGも例外ではありません。
そして会社の再建はやはり全社員の問題意識と、何としても乗り越えるのだと言う全社一丸の気持ちがカギを握っている訳です。

 

追記

今、私の目の前に新日プロの社員さんが作った厚さ約5センチ程の記録書があります。
幹部をはじめ全社員・全レスラーが会議でどのような発言をしたかという記録の他、感想文や研修風景等の写真等も集録されています。今、こうして改めて見ると新日プロの社員さん達の編集力は驚く程、素晴らしい記録書です。
そしてこの記録書は私にとって6ヶ月間の貴重な経営記録書でもあります。

これ以降の新日プロについては、プロレスファンの方ならご承知の事。
猪木さんが自ら創業した新日本プロレスは、3年後の2005年11月にプロレス関連ゲームソフト開発会社のU社(ジャスダック)に猪木さんの持ち株全株を売却。創業者のいない新日本プロレスが誕生しました。
この株売却の話を聞いた時、私自身、正直なところ複雑な気持ちになりました。

現在はU社から2012年1月にカードゲームのB社に売却。
B社のオーナーであるK会長から試合観戦にご招待頂き、久しぶりに新日本プロレスの会場へ足を運びました。
噂には聞いていましたが、現在、新日本プロレスの会場は常に大入り満員の大盛況。
プロレス黄金時代といってもいい程です。ゴールデンタイムでのテレビ番組はさすがにありませんが、BSやケーブルテレビで新日本プロレスの番組は、今も行なわれています。
これは新しく変わったB社オーナーK会長の経営的才能が見事に生かされた事は言うまでもありません。
同時に幹部の皆さんや全レスラー・全社員が、過去に厳しい体験を乗り切った事も大きく生かされているのだと、私は熱気ムンムンの試合会場を目の当たりにして思いました。

(次回に続く)

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