こんな理不尽な事に私が土下座などする必要はありません。ただ日本で唯一、この会社でガロンボトルを作っているという現実に対し、止むに止まれずの土下座でした。
頭を床についた時、何か後ろで気配がしました。少し頭をあげながら斜め後ろに目を向けると資材担当のOSGの社員さん2人も土下座をしていました。私は驚きました。そして申し訳ない気持ちになりました。彼らにそのような事をさせる必要はないのです。
私は過去に2度ほど辛い土下座をしています。
1度目は会社を設立してすぐの頃でした。新大阪駅で資金繰りに困り、お願いしていた保証人に対してです。この時は自発的な土下座でした。
2度目は親族に対してです。株式公開間近で株式公開を人質にとられた感じでした。
この時は指示に対しての土下座でした。いずれも止むに止まれずの土下座でした。
土下座は安易にするものではありません。そこには土下座をする価値が無ければならないのです。例えば会社の為であり、社員さんの為であり、家族の為であり、お客様の為です。
この場合、私は間垣社長に対して土下座していたのではありません。
注文を頂いた九州の販売店様の為に私は土下座をしていました。
ウォーターネットが十二分な準備も出来ていない中での大量発注を頂いた事に対して、何としてもその厚意に応えなければならない。にも関わらず万が一にもこの発注に応えられないかもしれないという気持ちが床に頭をつけながら考えていました。
同時に不思議な事に私は、間垣社長に同行している社員さん達がこの事態をどのように見ているのかと、土下座しながら冷静に考えているもう1人の私がいました。
間垣社長は土下座を無視したように会議室を出たので、私は次にエレベーターの前に移動し、再度エレベーターの前で土下座をしました。すると間垣社長は土下座している私をまたいでエレベーターに乗り込みました。隣で土下座していた社員さん達が「湯川社長、すみません」と泣いていました。私こそ、2人に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
しかしそんな気持ちをズルズル引きずっている訳にはいきません。私はすぐさま2人の管理職の社員さんを呼びました。1人には九州の販売店を訪ねるように指示しました。内容は「4月末のウォーターネットのプラントの状況によって5月のキャンペーンを実施するかの最終決定はもうしばらく待って欲しいと伝えるように」そして「ガロンボトルの件に関しては伏せておくように」と指示しました。
もう1人の管理職の社員さんにはマガキ化成を訪ね、改めてガロンボトルをお願いするように指示しました。
その時「たぶん間垣社長は私とは会いたくないだろうから、ウォーターネットの購買担当者は君(幹部)がやりますと伝えるように」そして「今後、マガキ化成さんに対して社長の湯川は出てこないと思いますと伝えるように」と指示しました。
その指示を終えた私は、すぐに東京に本社がある岩村産業運送会社の粟山社長に連絡を取りました。幸い、大阪で会議をしているとの事で、会いたいと伝えたところ、会議中であり会議終了後は食事会があるので今日は会えないとの事でした。10分でいいと言い、当日の夕刻に食事会をしている店を訪ねました。急な面談に驚いた様子の彼でしたが事情を飲み込み「我社は日本に1社しかないマガキ化成とは別に韓国のガロンボトルの会社から購入するようにしている。但しガロンボトルは空気を運んでいるようなものだからコスト的には高くつく。
しかし今回のこのような事態があるので仕方が無い」と韓国のガロンボトル会社の紹介を貰い、粟山社長には大変お世話になりました。
結果的にはマガキ化成が予定通り納品する事となりました。人騒がせな1日でした。
「新事業参入」の5文字はまさに「想定外の出来事が次から次へと襲ってくるもの」と書き換えてもいい位で、腹をくくらなければ出来ない仕事だなと思いました。この覚悟がなければ「新事業参入」という未体験ゾーンに足を踏み入れる事は出来ないのです。
そういう意味から言えば海外進出など異国での文化の違いや言葉の壁もそうです。安易な気持ちで土下座などやるものではないが、同時に土下座など屁のようなものだとタフな気持ちが必要だと思いました。
追記
後日、この間垣社長の言動について水宅配ビジネスの関係者の方ら数名と話をしました。
すると「間垣社長には、我社も被害があった」との事で、あの“土下座事件”はOSGのミスで何か間垣社長が機嫌を悪くされたのではなく、あちらこちらでそのような行動をしているとの事でした。
この話は2006年4月の出来事です。あれからちょうど11年が経ちました。
その後のマガキ化成はどうなったのでしょう。
結果的にはマガキ化成の経営を他社に譲渡されました。
噂によると事業がうまくいかなかったという事です。
あれ程、独占的にやっていた事業であっても何が問題だったのでしょうか。
(次回に続く)
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