代表取締役 湯川 剛

H社より次の会議を9月26日にしたいと連絡がありました。前回同様、韓国の代理店N製薬を訪問した後、仁川空港から青島空港に夜遅く入りました。
前回同様、10時から始まり10万個の具体的台数に対して、具体的な価格を決めて欲しいとの事で、前回の会議の際にも価格を提示していましたが、それでは厳しいという話でした。
午前中は、価格に対する議論だけで時間が過ぎました。食事を挟んで、午後の会議では「洗濯機だけじゃなく、洗剤のいらない食洗機も作りたい」との話になり、それにはOSGの電解槽が重要であるという事でしたが、やはり話題は価格の問題が中心となっていました。
電解槽の中には、重要な部分として電極板があります。例えば家庭用アルカリイオン整水器等、飲用が用途である場合、日本では白金を使います。白金は国際価格であり、いくら企業努力をしても限度がある訳です。ところが中国産のアルカリイオン整水器の場合、考えられないような安さで販売されています。その為、代理店は価格に対してクレームをつけます。
「いくら日本製であったとしてもOSGの卸価格は非常に高い。何とか安くしてほしい」と言われる訳です。日本製品との価格差の原因は間違いなくアルカリイオン整水器の心臓部分に当たる電解槽の電極板にある訳です。中国産を入手して電解槽を解析すると「やはり」と予想通り、電極板に白金は使用されていません。中には飲用向けとして使用してはいけない電極板を使っている場合もあります。今回の電解槽仕様は飲用ではないので、それ程高価な電極板を使用しなくてもいいのですが、それにしても耐久性・性能性を考慮して酸化イリジウムを使用するよう提案するのですが、やはり価格の問題に突き当たります。酸化イリジウムも国際価格なので価格提示には限度がある訳です。にも関わらずH社は「性能はよくわかりました。さすがにOSGの電解槽です。データも素晴らしい。しかし問題は価格です。価格を下げるにはいろいろな方法があると思います。大量に生産すればそれだけ価格は落ちます」と主張します。
OSGが飲用以外の電解槽を生産しているならば、その理屈も分かるのですが、何せ飲用外の電解槽はH社以外には無く、そのカギはH社が握っている訳です。その為「それならば希望価格になるような大量の発注をして下さい。それが出来るなら検討してみましょう」という展開になるのですが、如何せん何度、議論しても大量発注の基準が決まらないのです。

交渉を重ねる中、ふとある思いが頭を過ぎりました。
「まさか中国を代表するH社だから技術だけを盗用する事はないだろうが、まさかのまさかが中国のやり方だ」と。その後、私達は技術の肝となる部分は公開しないようにしました。
OSGの技術者には「ある程度まで話してしまっているので、H社がこれまで取引していた電解槽メーカーであれば、ある程度理解出来るかもしれないです」との懸念もありました。
しかし、これまでのやり取りを振り返ってみて、H社に電極板の微妙な配置や電極板の大きさ等が電解力に影響するところまでは理解していないだろうという結論に至りました。
これは家庭用アルカリイオン整水器で体験済みでした。単に電極板と電極板を合わせれば電解する事は中学生の実験でも学ぶ事ですが、中国産アルカリイオン整水器のメーカーは、基本的な電解槽技術に対する知識が不足していました。例えば、電極板メッキをする場合も飲用でのメッキは絶対に工業用メッキと同じところで行なってはいけないのです。

少しH社の話から話題が飛びますが、06年7月に「日中水関係品の法律と学術シンポジウム」が開催され、翌年07年3月には中国保健協会「功能水製品規格基準」のシンポジウムがありました。その一連の動きで08年2月に日中電解槽標準技術シンポジウムが西安で開催されました。この時、私達は驚くべき事実を目撃したのです。
実は中国産アルカリイオン整水器から出る飲用水の水質を分析した時、あってはならない物質が検出されました。この原因を究明しなければなりません。いろいろと解析した結果、恐らく電解槽に問題あるという事が分かりました。つまり電極板に問題があるという事です。中国産は高価な白金を使用していません。シンポジウムが開催される西安の近くに電極板メッキ業者があるという事で、私達はシンポジウムに参加した中国の幹部達と一緒に、そのメッキ業者を訪問しました。そのメッキ業者は、工業用メッキで電極板メッキをしていました。

今回のH社の場合は飲用向けではありませんが、洗浄効果だけでなく安全・安心を兼ね備えたものであるべきだと、OSGのポリシーとしてH社に強く訴えました。

06年11月20日、H社にて「OSG・H社洗濯機電解槽技術提携調印式」を行なう事になりました。

この中国を代表するH社がその後、私達ではとても考えられないような行動を取る訳です。

(次回に続く)

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