代表取締役 湯川 剛

カートリッジ交換で何とか2〜3ヶ月を凌いでいた矢先に、とんでもない新聞記事が掲載されました。見出しには「浄水器器具の中は菌がウヨウヨ」の文字。記事の内容は、カルキ臭の元は塩素であるが、塩素は殺菌の役割もあり、その塩素を除去する事は浄水器器具の中は殺菌効果ゼロ。よって浄水器器具の中は雑菌が繁殖するという内容でした。事情の知らない私自身にとっては驚天動地の驚きでした。良いと思って勧めていた商品が、実は新聞の見出しでいうところの「菌がウヨウヨ」なら、大変な事です。大慌てでレンゴー産業に相談に行きました。その当時の私は、何かあればレンゴー産業に行っていました。大人の集団であり、水の知識の集団という思いがありました。私の周辺で40代、50代の大人とのお付き合いは、レンゴー産業以外なかったのです。

さて、相談に行ったところ相手は慌てている私の顔を見て、ニコニコしていました。私の心配事に対して、まともに受け入れてくれないギャップに腹立たしさを感じると同時に、少し安心感も抱きました。開口一番、「当然の事だから別に驚く事はない。」「菌といっても病原菌ではない。いわゆる雑菌」と言って目の前のお茶を指差し、この中にも浮揚菌はいっぱいいてるよと言います。大腸菌などの病原菌が浄水器の中に入れば大変だが、それは不可能に近い。もし入っていたなら水道水に問題がある、との事でした。長期間、家を空けて久しぶりに浄水器を使う時は、器具内に溜まっている水を流し捨ててから使えば、何も問題はないし当然、カートリッジの交換は定期的に行なわなくてはならないので、湯川君のしている事はとても素晴らしい事だとむしろ勇気のある言葉を貰って帰った次第です。

それにしてもこの記事は消費者に強烈な印象を与えました。3月末に近畿大学の女子学生が同じような論文を発表し、それがまた記事になりました。続いて暮らしの手帖にも特集で「浄水器の雑菌問題」を取り上げられ、浄水器メーカーは壊滅状態に追い込まれました。
1972年のこの年は弱電メーカー以外にも多くの浄水器メーカーが誕生。その出鼻を挫かれた事で倒産や撤退が相次ぎました。この問題をきっかけに家庭用浄水器協議会が発足し、なんと120社の会員が集まりましたが、わずか数ヶ月で8社にまで減少。しかしこの問題によってメーカーも消費者も浄水器に対して「正しい知識」「正しい使い方」を認識した訳で、この問題はむしろ浄水器の地位を高めるきっかけ作りになった訳です。
しかし当時のメーカーはそんな事を知る由もありませんでした。そして私達はこの問題から「浄水器を販売するエネルギーと同じ位、メンテナンスにも力を注がなくてはいけない」という理念を確立した訳です。1軒1軒コツコツとカートリッジ交換を行なう事は、大変な作業で収益面から見てもあまり得策ではなかったのですが、仕事の使命感のようなものを持った感じがしました。皮肉な事に、もしW社からの製品供給が続いていたなら、ここまでカートリッジ交換のメンテナンス業務に力を入れられたかと言えば、それは分からない話です。
人生は一見、悪い出来事のように思われる事も、それが後々全く違った方向に進むのだという事を学んだ気がします。当然それは良い出来事と思われる事も同じです。

現在、家庭用浄水器協議会は有限責任中間法人浄水器協会として47社の加盟会員で成り立ち、浄水器普及(浄水器設置数1500万世帯、普及率35%弱)に大きく貢献しています。尚、OSGは発足当時より今日に至るまで30年を超える会員です。

(次回に続く)

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