素材メーカーの役員であった五菱ナイロンの三田村氏が、ウォーターネットの社長に就任するという案が立ち消えになりました。その理由は、トップ人事を決める事になっていた石塚氏と藤本塾長が、途中加入の大手LPガスで役員経験のある粟山氏を社長に指名した為です。そこで三田村氏に「社長断念」の説得にかかったのですが、強く拒否され、私の肩書きである代表取締役会長の職をも拒否されました。そして私に向かって次のような話が出ました。
「湯川さん、私はあなたの事をいろいろ調べています。これが暴露されたら大変な事になりますよ。それでもいいのですか。ウォーターネットの創業者である湯川さんが私を強く社長に推薦してくれれば、何も問題はありません。もし社長にしてくれないならば、私は湯川さんの事についていろいろ調べていますので、暴露しても構わないですよ」
私にとって三田村氏の話は全くの想定外で、唖然とするばかりでした。
私も60年近く生きてきて、20代には若気の至りもあり、一つや二つ、いや自慢にはならないですが百や千くらいあるかもしれません。若い時に駐車違反等の交通違反はありますが、それ以外に法律違反はありません。コンプライアンス違反でなく道徳的な問題として考えれば、若い頃には当時の彼女とズルな別れもしたかもしれません。
キリスト教の教えではないですが、「全ては罪人(つみびと)である」なら、私も罪人ですが暴露されて困るような事はありません。
それにしても三田村氏の「暴露発言」に驚くと同時に「このオッサン、凄い人やな」と、むしろどのような話が出るのかと興味が湧きました。
「三田村さん、私は聖人君子ではありません。自慢じゃないが、叩けばホコリの一つや二つは出ますよ。どんなホコリかは知りませんがどうぞ言って下さい」というと、三田村氏はテーブルにあった水を一口飲んで話し出しました。
「ある会合で、OSGの社員でない外部の人間にOSGの制服を着せて、OSGの社員と一緒に参加させたでしょう」
「はぁ?」と、拍子抜けするほど意味のない、どうでもいいような話でした。
「それがどうしたのですか。次に何があるのですか」
三田村氏も私の反応を見て「今一つ効果がない」と感じたのでしょう。「もういいです」と言って終わりました。「暴露するぞ」の言葉に私が驚いて困った顔を見たかったのでしょうか。
なんだか哀れな感じがしました。
私は経済小説等で同じ職場の仲間の足を引っ張るような物語に出会う時があります。舞台は殆どが大企業での話です。読みながら「ホンマかいな。同じ職場の人間同士でそんな事あるのかな」とにわかに信じられませんでした。
社長派や会長派という派閥は大企業では存在するかもしれませんが、それにしても同じ目的に向かって働いているのが職場の仲間だと思っています。その仲間の足を引っ張るなど理解出来ませんでしたが、この三田村氏の行動で現実にあるという事を学びました。
私は三田村氏との面談の後に、石塚氏と藤本塾長にこの話を電話で伝えました。勿論、「湯川さんの事をいろいろ調べています。これが暴露されたら大変な事になりますよ」の話もしました。2人は笑っていました。そして「そういう人は会社にはいるのです」と言われ如何に私が幼いのか、いずれにしろ経済小説の中だけの話でない事はわかりました。
後日、私は取引先の五菱ナイロンの管理職にこの話をしました。そうすると彼らは「何も不思議な話ではありません。三田村氏はそのようにして組織を這い上がってきた人物です」と言われ、また熱が出そうなショックを受けました。
大企業での出世コースに入ろうと思えば、社内スキャンダルを常に探すパパラッチ的能力も必要なのかと思いました。たぶん三田村氏自身の特性ではないと思います。彼もまたその組織の中で、上司のしてきた事を見て学んだのでしょう。そのような組織だから今、五菱ナイロンは株式市場から消えているのです。こうしてこのような人物が会社をダメにしていくのです。改めて三田村氏を社長にしなくて良かったと思いました。
06年6月7日17時にウォーターネットの臨時役員会議が召集されました。
この日はウォーターネットの社長を決定する日です。あの三田村氏も参加していました。
役員会議の第一議案として「社長は粟山氏」に「異議なし」の声が上がると同時に三田村氏はすぐに退席しました。
今回の件で、59歳のいい年をして私はまた一つ勉強になりました。
(次回に続く)
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