代表取締役 湯川 剛

いわゆる水道水のカルキ臭の原因は、塩素です。つまり塩素がなければ必然的にカルキ臭もなくなる。でも塩素は殺菌効果の為には必要不可欠なもの。浄水場から何キロも経て、それぞれの家庭へ供給される水道水。万が一、水道管の中に大腸菌などが混入する事があっても、塩素があれば殺菌して飲める水にしてくれる。カルキ臭くてマズい水の原因となっている塩素にも、きちんと役割があるのです。でもその塩素が、水本来のおいしさを殺しているのも事実。
だから塩素殺菌された安全な水として供給される水道水を、飲む寸前の蛇口のところで塩素をカットする。これが浄水器の役割なのです。

今でこそ塩素は他の有機物と化学反応を起こして、トリハロメタンという発がん性物質が生成されているという事で、浄水器の役割もすっかり変わってきましたが、当時は単に臭みを取るという役割のものでした。それだけ価値のある製品だからこそ、35年の間に1500万所帯に使用され、「浄水器」という言葉も完全に市民権を得た訳です。

話は35年前に戻しますが、当時はメーカーも消費者も知識不足もあり、慌てました。マスコミの力は脅威で、浄水器メーカーが相次いで撤退・倒産。しかし私たちにとっては、不幸中の幸いか、カートリッジ交換というメンテナンスを中心に動いていましたので、W社以外の浄水器のメンテナンスも見てほしいという依頼が、日増しに増えました。
そんな中、大手家電のN製浄水器のカートリッジ交換依頼があり、困ったこともありました。何せ誰もが知る大手家電メーカーが、私たちのような会社と取引する筈もなく、だからと言って折角お電話を頂いたお客様を断る訳にもいきません。「お近くのアンテナショップで交換なさったら如何ですか」というのも癪に障るというものです。その結果私はなんと、非効率で非生産的な行動をとっていました。それは自分がN製品取り扱いのアンテナショップでカートリッジを買い、お客様のところに持って行ったのです。1軒2軒ならこの行為も許容の範囲かもしれませんが、数百軒のお客様のところに行くのですから、こんな無茶苦茶な商売はありません。1000円で買って900円で販売している訳ではなく、1000円で販売しているので商流的には損をしていませんが、ガソリン代や人件費はまるっきりの損でした。でも損益を無視してでも出来たのは、「わざわざお客様から電話を頂いた」という事が嬉しかったのです。何より嬉しかったのは、カートリッジ交換の訪問を想像以上にお客様が喜んで頂けた事でした。数ヶ月してN製品の部品センターがある事を知り、ケース単位を条件に現金販売してくれるとの事でした。それでも訪問する経費を考えれば、全くの赤字には変わりありませんでした。

カートリッジ交換依頼の中には中小企業メーカーの製品もあり、これは比較的利益になりました。相手側も自社の製品のカートリッジをわざわざ代行してくれるという事で、大変に重宝がられたものです。その中、京都のC社のY社長が、「湯川君、カートリッジ交換もいいが、製品も売ってくれないか」という提案がありました。W社からの製品も止められていたので、喜んでその話に乗りました。蛇口直結タイプで、他社とデザインが変わっているところも気に入っていたので、Y社長の提案は嬉しい限りでした。浄水器の雑菌問題も落ち着き、消費者も浄水器の役割を理解してくれ始めていた頃の事です。競合各社は殆ど淘汰され、浄水器協議会も発足し、仕切り直しの感じで浄水器の販売とメンテナンスに力を入れる事にしました。

(次回に続く)

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