代表取締役 湯川 剛

元旦の仏壇前での長い時間は、ある考えをもたらしたところから一気に方向が決まりました。
それは「社長の座に長期に居続ける事が成長を妨げるのではないか」と結論づけた事です。

そうすると次にまた新たな問題が出てきました。これは極めて重要な問題です。
それは、誰にバトンタッチするかという事です。
話は変わりますが、OSGは私の身内を入社させていません。考えに考えた末の方針です。
一般論で考えた場合、トップの継承は身内から選出するのが、一番治まりがいいのです。
よって私はOSGの協力関係企業や販売店の経営者には、世襲制を勧めています。
日本を含めたアジアでは一族経営が風土にあっています。「あなたのお父さんに大変世話になった」と言って、引き続き親族に協力する事例を多く見てきました。良き習慣だと思います。
また親族が集まる結婚式や法事等で親戚達が経営状況を確認する場合があります。
「どうだ、お父さんの跡を継いでうまく経営しているか」と経営の検証をします。
これが第三者に経営を継承した場合には殆どありません。更に具体的な問題として、銀行からの融資に対する担保の問題等があります。創業者が借りた融資の担保の提供は、親族が引き継ぐのが自然です。また経営者の家庭で育った子供達は知らず知らずに、経営者の考え方を学んでいるものです。家族が集う食卓での会話に、資金繰りの問題や社員さんの話題が少なからず出てくるでしょう。比較的、幼少期からそんな話題と接する機会に恵まれている分、経営者の子供達は無意識の内に「経営」というものを頭の中に叩き込まれていく訳です。

OSGの場合、創業時から世襲制を捨てていました。理由は創業時の私の年齢が若かった事もありますが、最大の理由は経営理念を掲げた事と言えるでしょう。「社員さんと共に」という考え方が経営の中心にありました。もしかすれば、もう1つの理由があるかもしれません。 実際には経験をしていないので明確には言えませんが、私の性格から考えれば多分、身内が入社した場合、他の社員さん以上にその身内に対して厳しく要求したであろうと思います。それはどちらも辛い事です。だから入社させません。

特に「株式公開企業を目指す」と宣言した創業20年以降、その考えが一層強くなりました。
OSGの事業に家業の発想はなく、企業としての考えで進めていこうと思っていました。
しかし上場後に一度だけ、この考えを自ら破った事があります。それは私の身内で失業している者がいて、何とか職に就けさせられないかという話が身内から起こりました。そこでやむを得ず、子会社で採用する事にしたのですが予想通り、問題が起こりました。
企業にはいろいろな規則があります。社長の身内であるという事で、周囲のチェックの目も厳しくなるものでしょう。規則違反を犯した訳ではないのですが、その者が間違った経費の処理を社内で提案したのです。提案しただけではありましたが、社内で問題視されたのです。
「私が誤ってこの一件を処理したならば、間違いなく〝組織〟は崩壊する。以後、私の指導力が低下するのは火を見るより明らかだ」と判断し、彼には事情を伝え退職して貰いました。
それ以降、組織に身内を入れない気持ちが更に強くなりました。今後の事は分かりませんが、OSGの役員や幹部が身内からの入社を望んだとしても、少なくとも私が代表取締役に就任している間にはないと思います。

さて社長の座から降りるにあたり、大きな課題と取り組まなければなりません。それは誰が社長を継承するかという事です。ズバリ2代目社長に就任するのは誰かという事です。
しかも私のような個性のきつい経営者の跡を引き継ぐのは、並大抵のものではありません。
この新たな課題が仏壇の前での考えを更に巡らさせた訳です。分かっている事は外部から招聘しないという事です。OSGの文化と仕事の仕組みが体に染み込んでいる社内からの採用です。当然の事ながら、役員から選出する事だけは決めました。

次に決めた事がありました。それは、いきなり大役を新社長に背負わせないという事でした。
その為に私が代表取締役会長になり、CEOに就任して会社で起こった全ての最終責任は私が持つという事です。すなわち2人代表制で行なう事でした。新社長がいきなり滑走路から飛び立つのではなく、徐々に移行していく事を大きな方針として決めました。

それでも大役である事には変わりはありません。正直、私の目から見れば役員全員、次期社長候補として経験不足、知識不足、度量不足である事は否めません。それは当然の事です。
年齢や経験の違いは、致し方のない事です。これは彼らの責任ではありません。
そのように育成して来なかった私の責任です。
しかし不足な部分ばかりを考えていると前には進みません。
むしろバトンタッチされた新社長に対して申し訳ない気持ちの方が強くありました。
全ての経営者が悩む「後継者指名」。
しかし、経営者ならば必ず通らなければならない道なのです。しかもこの後継者問題を失敗した時には企業の命取りになる場合もあります。揺るぎない実績があり、組織が完全に機能している大企業の組織ならまだしも、中小中堅企業はモロにトップの影響をうけます。 いや昨今では巨大組織ですら、トップの判断で崩壊する事例はあります。
「馬鹿な大将、敵より怖い」の例えです。
いずれにしろ後継者指名された2代目の社長は大変な屋台骨を背負う訳です。


(次回に続く)

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