代表取締役 湯川 剛

経営者には、営業畑出身や生産・技術・財務・経理等の経験値とは別に、経営運営の手法・方針として、2つのタイプに大別されると私は思います。
全員の意見を吸収しながら経営をしていく、いわゆる民主的な運営を進めるタイプの経営者です。多少の時間が掛かっても根回しし、調整型やボトムアップ型の運営を行なうタイプの経営者です。いわば「急がば回れ!」の考え方です。
もう1つはいわゆるワンマン的な経営を進めるタイプです。
特に創業経営者の場合、殆どワンマン的な経営ではないでしょうか。トップダウンで進めていきます。「時間」こそが収益の源であり、エネルギーの源であるとの考えで、調整するような事はしません。朝令暮改は日常的。根回しするのは時間のムダ。多少の意見の違いは「十人十色」としてイチイチ気にしない。決断と責任をワンセットとして捕らえ、全て自分で決めていくタイプの経営者で、まさに「急がば急げ!」の考え方です。
私の場合、調査した訳ではありませんが、後者のワンマン経営者に入ると思います。
いや「湯川には超がつくぞ」との声が、もし調査をすれば社内や社外からも「全会一致」で認める超ワンマン経営者でしょう。(見た目から見てもビジュアル的にそうでしょう)

ところが民主的経営を進めてきた経営者でも、後継者決定において他の人の意見を取り入れたとしても、最終的には社長がひとりで決断しなければなりません。ワンマンで決める訳です。
中小企業は勿論の事、巨大な企業であっても同じです。後継者を決定する時、全ての経営者はワンマン経営者に変身します。
ましてや私のような「超」がつくワンマン経営者の場合は尚更の事。そのように独断で決定したとしても、周囲は皆「当然の事」として受け入れるでしょう。

ところが、私は真逆な事を行ないました。
事業年度が終わった翌日の07年2月1日。「22時に本社へ来るように」という突然の私からの召集命令に対し、役員達が本社に集まりました。6人の役員に向かって、次期社長の選出方法を彼らに伝えました。
それは「次期社長は、みんなで決めてその結果を私に進言して下さい」と言いました。
全員、戸惑っていました。むしろ迷惑そうな顔にも見えました。
次に「選出の方法はみんなで話し合いで決めるのではなく、各自の考えで投票して決めます」と伝えました。私と長年、創業時からいた専務は社長候補には入れず、投票の後見人に指名しました。結果は明日の役員会議では発表しないと伝え、私はその場を退席しました。

ではなぜ、このような方法を取ったのかという事です。これは考えに考えた末の結論でした。
全ての役員は私と共に、闘って来たという自負心があると思います。ジャスダックに上場させた企業戦士であり、戦友です。もし私が特定の役員を次期社長に指名した場合、間違いなく全員がそれに従ってくれる自信もありましたが、どこかで「私ではないのか」との気持ちに配慮する事にエネルギーを取られたくないという判断もありました。

「選出の方法は、みんなで決める」「話し合いではなく、各自の考えで投票する」
この選出方法を決めたのは、以下のような理由がありました。
私は戦友である役員の全てを把握し、認識している訳ではありません。特に私生活に関しては殆ど把握していません。意識的にそうしてきました。プライベートに関してはノータッチです。
例えば息の合った漫才師がステージから降りれば、それぞれ別のプライベートの時間を要します。ところがステージに上がれば息がピッタリに仕事をするのです。殆どのコンビが、そうらしいです。これは吉本興業の役員から私が若い時に聞いた話です。その話に妙に感心し、それこそがプロだと思っていました。
そんな私でも創業20年頃までは、家族ぐるみで行なってきました。社員さんの奥さんやお子さんの名前・学年は、殆ど把握していました。私の家での飲み食いは常時でした。
プライベートはノータッチと言っても、社員さんのご家族に無関心であるという事ではありません。

役員に限らず社員さんの場合でも同じですが、私の視点はあくまでも「経営者」という立場から「上からの視線」でしか役員や社員さんを見ていないという事です。役員の性格や責任感、更に日々の思考と行動パターンは間違いなく組織に影響を与えます。社員さんに対して、同僚に対して、そしてお客様に対して、どのような考え方を持っているのか。正直、私は役員の行動の全てを把握していると自信を持って言えませんでした。
その為には少なくとも役員同僚達の考えも参考にしなくてはなりません。もし私に意中の役員がいたとして、その役員が選ばれなかったなら私の知らない彼がいたという事です。それを確認したいとも思いました。
人物評価で細かな事を言っても、キリがありません。完全無欠な人はいないのです。
人間ですから長所があれば欠点もあります。誰よりもこの私がそうです。だから「1票」の力で大きな観点から判断させる方がいいと思いました。
ちなみに話し合いはダメです。いろんな感情が出てきます。よって話し合いの選出は採用しませんでした。勿論、この手法は私の判断であって、他社に当てはまるとは思っていません。

さて私はその場を去りましたので、投票している彼らの状況は分かりません。後見人にも聞きません。聞く必要もありません。結果だけを知ればいい訳です。ただ想像すると、「みんなで投票して選ぶように」と言われた役員の皆さんは大変だったと思います。

その夜、後見人である専務から私に連絡が入りました。


(次回に続く)

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