東日本大震災が発生後、徐々にその被害の大きさが明確になり、驚きました。
いつまでもその悲しみに憂いているばかりでなく、人々は復旧・復興に動きだしました。
天皇陛下・皇后陛下(現、上皇上皇后両陛下)が避難者お見舞いのご訪問が報じられ、また都内ではミュージシャンのチャリティーコンサートが開催される等、少しずつですが日常生活を取り戻そうとしていました。しかしそれは殆どが遠く離れた都内での行事でした。
被災地で復旧・復興コンサートをやりたいと願いながらも、タレントやミュージシャン達は迷っていたのだろうと思います。
被災地にはウォーターネット福島プラントや仙台プラントがありますが、既に在庫がなくプラント自体も損傷している為、避難所などにガロン水を供給する事が難しくなりました。
そこで西埼玉や千葉中央、更に関西等からガロン水を運ぶ事になりました。各地のプラントのネットワークを使って、ウォーターネットの仲間達は助け合ってくれました。被災地で必要とされる生活物資はガロン水だけではなく、特に乳児の粉ミルクや紙おむつ、そして女性の生理用品等がなくて困っているとの事からガロン水の供給と同じく運びました。
ウォーターネットの社名通りネットワークを使ってチカラを発揮してくれました。
私は応援コンサートを見るにつけ「被災地でやる」事の重要性を、日を追う毎に強く感じるようになりました。とはいえ、私には芸能人や有名タレントに知り合いはいません。
私が唯一知っている有名人と言えばアントニオ猪木さんやプロレスラー蝶野選手らです。
ガロン水や生活用品の物資輸送に留まらず、被災者の皆さん方を激励する為に被災地現場を直接訪問してみないかと呼びかけました。
「売名行為」という意図と離れた誹謗中傷を危惧する声が一部の人達から上がりました。
「未曽有の大災害で甚大な被害を受け、傷ついた方々に少しでも元気を取り戻して前を向く気持ちになって貰えるような背中押しをしたい」
この目的に猪木さんは「よし、やろう!」と二つ返事で賛同し、蝶野選手も同意してくれました。本来であれば被災地でプロレスを興行する事も考えましたが、それは時期尚早としてまずは被災地を訪問し、直接激励する事を優先しました。
2011年4月5日。
猪木さんのファンや支持者、それにマスコミの人達が集まりました。トラックの中にはガロン水の他、猪木さんの提案で赤の闘魂タオルやダウンジャケット等も積みました。
猪木さんが動けばメディアも動きます。改めて猪木さんのネットワークの凄さを感じました。
猪木さんはスポーツ紙の記者らとロケバスに乗りました。私は蝶野選手が用意した車に乗りました。(この日の出来事は蝶野選手の著書にも掲載されています)
車中で蝶野選手と「被災地に猪木さんが行って〝元気ですか!〟が受け入れて貰えるのだろうか」と話していましたが、猪木さん自身も同じことを考えていたようです。
果たして避難所に行って「元気ですか!元気があれば何でもできる」の例のフレーズを受けて入れて貰えるのか。「ふざけるな!」と反発が来るのではないかという思いが、私のみならず猪木さんの心中でも複雑に交差していました。
最初に訪問したのは福島県いわき市の避難所です。
訪問する事は事前に報告していましたので職員の方が我々を出迎えてくれました。
猪木さんを見て彼は、やはり驚いていました。その時、猪木さんが従来の声からすれば比較的小さめでしたが「元気ですか!」と職員に尋ねるように言いました。
すると職員さんは笑顔で「元気です」と反応しました。この瞬間、猪木さんは「イケる」と思ったに違いありません。彼独特の感性が動きました。避難所に入ると職員さんが案内。
「皆さん、アントニオ猪木さんですよ。アントニオ猪木さんが激励に来てくれました」
すると猪木さんの前に避難されている方が驚きの顔で集まりました。
そこで猪木さんは赤い闘魂タオルを首にかけ、いつもの大きな声で「元気ですか!」と右手を上げ、左手で闘魂タオルの端を握っていました。例のいつものポーズです。
避難所におられた方が「元気です」と言われました。
「元気があれば何でもできる。この難局を乗り切りましょう」
「1・2・3・ダーッ!」
いつもと変わることなく猪木さんは声を張り、避難所の方々も一緒になって一斉に声を上げながら、右こぶしを天に突き上げていました。
私はホッとしました。さすがに〝千両役者〟です。
この日の出来事がNHKの5時のニュースに取り上げられました。
同行していたスポーツ紙の記者達も「大成功だ!」と評価してくれました。
翌日、各局の朝のワイドショーでは「猪木、被災地にてダーッ!」のスポーツ紙記事が紹介されていました。
よかった。
この後、有名タレントやミュージシャン達が被災地で開催するコンサートや激励会等が一気に増えました。
(次回に続く)
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