代表取締役 湯川 剛

「いっそ会社を整理して、一からやり直した方が楽かもしれない」
そんな思いが一瞬、頭を過ぎった事もありました。
それでも会社を潰さなかったのは、父が残した借金を背負った経験があったからでした。
「困難から逃げず立ち向かって行く事で、今までも乗り越えてきたのだから、今度の出来事も、私自身と会社が大きく飛躍する為のステップにする事が出来る筈だ。今の苦しみは私を試す為に、神様が仕組んだ試練かもしれないぞ。」
そう考えると、自然とやる気が沸き起こり、ウジウジと過ぎた事ばかりを考えている自分が、何とも小さく思えてきました。
降りかかった問題を、ただ「大変だ」だけで済ませていては、何の進歩もありません。むしろ、この突きつけられた「問題」に潜む「解決すべき課題」を探すいい機会だと受け止める事にしたのです。

そもそも情報に耳聡い筈の新聞記者の方でさえ「浄水器」の存在を全く知らなかった事が、誤報に至った原因でした。それ程「浄水器」は当時、一般に認知されていなかったのです。
今でこそ聞きなれた単語となりましたが、当時は「浄水器」と辞書を引いても当然、そんな単語は見当たりませんでした。電話帳の職業別欄でもどこに分類すべきものか、当時の電電公社(現在のNTT)も迷っていたくらいです。
おいしい水が出る器具だから「食品関係」か?
台所で使うものだから「調理器具」か?
水道の蛇口に取り付けるから「水道器具」か?
水道水の水源が公害で汚染されている事から生まれた商品だから「公害防止機器」か?
いやいや、おいしい水そのものに注目して「飲料分野」か?・・・
とにかくこんな具合に、しっくりと収まる職業欄がなかったと記憶しています。

「皆にその存在を知られていない浄水器」・・・私はここに着目しました。
「浄水器」という新種の製品が世に出て、物知りの新聞記者ですら知らない商品であった事が今回の騒動の原因だとすると、自分の課題は自ずとはっきり見えてきた訳です。
それは誰もが「浄水器」と言えばすぐ分かるような域にまで知名度を上げていく事です。「浄水器」をより多くの方に知って頂く事、そして台所用品として所謂「市民権を得る」よう普及に努める事こそが、自分に課せられた課題であると思ったのです。そう思うと、こんな事でグズグズしている暇など微塵もありません。
しかし人なし、金なし、物なし、実績なしの自分が置かれている環境から考えると、「浄水器の知名度向上」など、とても容易に出来るものではありません。ならば、せめてこの商品が世に出て皆に「浄水器」と認識して貰えるまで、絶対に手放すまいと心に誓いました。

この原稿を書きながら、傍らにある携帯電話のメール画面で「じょうすいき」と入力してみました。変換すると見事「浄水器」と変換されました。まさしく36年間の変化です。何か熱いものがこみあがってきた感じです・・・。

(次回に続く)

ご意見、ご感想は下記まで
support@osg-nandemonet.co.jp