企業イベントとはいえ本格的なプロレス興行を広東省シンセン国際都市にて行われました。2017年12月17日から22日の6日間興行です。
17日、初日を迎えました。ここまでは前回の時に記載しました。
さて3試合目同様に、4試合目も中国人選手対日本人選手のタッグ戦でしたが、これまでの3試合と違って、少し会場内の空気が変わりました。
ヒールに徹した日本人レスラー2選手が花道より登場。中国人観客に反発させるような煽りをしながらの登場です。入場曲もそのような雰囲気です。観客席の不安げな顔と不満と反発の態度の空気感が会場を充満します。次に我らの同胞中国人レスラー2選手の登場です。
先ほどの子憎たらしい日本人選手に打って変わっての中国人選手の登場に場内の観客のテンションは急上昇になりました。
言葉は分かりませんが「やっつけろ!!」といっているのか、そんな雰囲気です。私自身、中国語が分からずとも、空気感から十分に伝わります。
試合はプロレス経験が十二分な日本人レスラーが優位に展開される流れです。大きな技をかけられれば会場は一斉にため息が出ます。「あぁ~」と観客席から落胆な声が一人残らず聞こえてきます。中国人レスラーがやられっぱなしの展開ですが少し反撃すれば一気に会場は盛り上がります。しかし体格の違い、技の違いはプロレスラーとアマチュアレスラーとの違いで、終始試合は日本人レスラーの優勢でした。
試合の展開から日本人レスラーがリング外に出た時の事です。
ここで「事件?」が起こりました。
何と一人のおばさんが客席から柵を超えて、柵中に入ってきたのです。そして何か中国語で日本人レスラーに向かって叫んでいる感じです。そしてなんとおばさんが持っていたスティックバルーン(棒状の風船)を日本人レスラーに向かって振りかかってきました。更に柵外からも数十人のおじさん、おばさんがスティックバルーンを振りかざしています。日本人レスラーはびっくりしました。そして頭を抱えておばさんのスティックバルーンに対して防御しています。その姿に会場の800人の観客は大盛り上がりになりました。言葉は分かりませんが「やっつけろ!」「負けるな!」「がんばれ」と会場全体がそのおばさんを応援しています。
驚いたのは私だけではありません。シンセン社員のスタッフも驚き、おばさんを慌てて柵外に連れて行きました。たぶん一番驚いたのは日本人レスラーです。ただ会場全体は日本人レスラーに対して反感を持っているというより、どこか余裕のある「闘い」での一幕でした。日本人レスラーもよく会場を盛り上げてくれました。
柵外ではおばさんは、めちゃめちゃの英雄です。
後で日本人レスラー達とその時の話をしましたが、昭和の終戦直後の力道山が外国人レスラーをやっつけている感じが、こんな雰囲気だったのですね。との感想でした。いずれにしろ会場が一体になるというのは最近の日本のプロレス会場でも珍しい事だとの感想でした。
参加した日本人レスラー全員の感想は「会場の熱気は凄く、選手としては大変やりやすい」との大好評でした。中国人レスラーも想像以上の反応に感動していました。
何せ発する言葉が観客にストレートに通じるので日本人観客相手の試合とは違ったのでしょう。こうして初日が終わりました。
2日目、3日目、4日目と回を重ねる毎に観客も増えましたが、4日目が終わった時に公安当局から呼び出しを受けました。「明日のシンセン大会の千秋楽である5日目を中止」との事です。これに対してシンセン代理店の幹部と公安当局の交渉が夜遅くまでありました。
会場内の定員がかなりオーバーになっている。プロレスの噂を聞き、周辺の交通渋滞が起こっている。更に一般の人がなぜ入れないのかの抗議も起こっているとの事でした。
私達もその現象に驚き、何とか最後までやり通したい気持ちでしたので、シンセン代理店の幹部の長時間にわたる交渉で結果的には無事「千秋楽5日目」も開催出来、ホッとしました。
実は公安の職員も結構、見に来ていたとの事です。中には5日間連続でお孫さんと一緒に観戦していたお爺ちゃん達が多くいました。それだけに招待客の800人を超えていた事が問題だった事と企業内イベントとしてのプロレス興行でしたが街中が噂になり、一般の人も見たいとの事です。
この5日間の間に全国の欧愛水基代理店の董事長らも観戦していました。そして多くの代理店が「私達の地域でもプロレスをやりたい」との声を聞きました。最終日には日本からプロレス専門週刊誌の記者も取材に来てくれました。
12月21日のシンセン大会から翌22日に珠海大会を行ないました。この大会会場は、ライブスタジオにリングが設営されました。一部の関係者80名くらいが入られる位の広さですが、野外に大きなスクリーンを2機設置しました。この珠海大会ではシンセン大会のように限られたお客様だけが観るのではなく、広く一般の方にも見て頂けるようにという地元の若手経営者達の企画でした。珠海は香港への入国は徒歩で行けるくらいの国境の街です。
12月とは言え暖かく、クリスマスイブムードもあり、試合開始が19時からです。関係者の話では約2000人の観客がスクリーンを通じてプロレスを見てくれました。この時も一つの手応えを感じました。中国人同士の試合で片方が打ち所が悪く、救急車で運ばれましたが緊張と感動の6日間でした。この間に約6000人の中国人がプロレスを見てくれたことになります。
12月23日。私は9時30分九州港発香港行きのフェリーに乗船していました。
香港発14時25分、羽田19時15分着の飛行機に乗りました。羽田を到着した時にふと今から24時間前に珠海大会が始まったのだなと振り返る気持ちはありましたが、それよりも「いろいろあったな」という気持ちの方が強くありました。
【追記】
シンセン代理店の董事長の話によると過去のあらゆるお客様向けイベントをしましたがこのプロレス観戦だけは後々話題になっているとの事です。また「いつやるのか」との問い合わせもあるとの事です。
この後、東方英雄伝は、天津大会や上海大会などを開催していきます。
しかし中国人同士でやるには技術的にも問題であり、珠海大会のように技術が出来上がっていない者同士がやると大けがをする場合もあります。そこでどうしても日本人レスラーの人達の力を借りなければなりません。天津大会や上海大会なども日本人レスラーの参加によって更に盛り上がります。また国家体育局の責任者との面談で、オリンピック出場選手のプロレスラーへの打診もありました。その選手がヒーローであれば一気にプロレスは根付きます。双方の話し合いは前向きに今後の課題へとなっていました。
そんな最中の2020年。新型コロナウイルスが感染拡大となり、今まで自由に往来していた事が出来なくなりました。中国人レスラー日本で試合をする事も出来ません。日本のプロレス興行自体が中止となりました。やっと花が咲く期待がありましたが、新型コロナウイルスがいろんなところで計画を頓挫する事になりました。
その中で嬉しい話もありました。東方英雄伝の選手のひとりがWWEに入団したという事です。私は信じています。中国では必ず格闘技を含めて、プロレス等のスポーツエンターテイメントの花が咲く事を信じ、期待しています。2017年はそのような意味では「中国プロレス元年」と位置づけしてもいい年でした。
(次回に続く)
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