代表取締役 湯川 剛

本日は「銀座仁志川」食パンが誕生するまでの現場の奮闘記を書きたいと思います。
過去にも私は「●●をやるぞ!」と声をかけると、それに相応しい人達が集まってきてくれました。とはいえ毎回緊張はあります。
ましてや「銀座仁志川」ビジネスは、初の「食事業」への挑戦ですので全くの手掛かりはありません。そこで外食を経験している髙橋社長を核として期待するしかありません。
そんな中、頼もしいメンバーが入ってきてくれました。
山本 厚氏、当時67歳でした。彼は1951年生まれで50年近くパン作りの経験をしています。パン作りだけでなく、過去の職歴を見ると、製パン技術の指導や人材育成・材料管理・出店計画・店舗レイアウト作成等、多彩な経験を持っていました。更に店舗技術向上の為の勉強会やQSCの強化等、基本テキストの作成も出来る人材です。

そんな彼にまずお願いしたのは、「仕込水をアルカリイオン水でやって下さい」。
そして他にない独自の「銀座仁志川 食パン」を作って欲しいとお願いしました。
これは私が食パン生産において全くの素人だから言える事だったかもしれません。
独自の「銀座仁志川 食パン」とは、例えて言うなら「上品な甘さ。口どけが良い。香りが良い」食パンという事です。
以前にも書きましたが、私の友人で関西で有名なチーズケーキの「デリチュース」の長岡オーナーの「どこにもあるが、どこにもない商品を作る」という言葉に私は衝撃を受けました。
「食パンはどこにもある。しかし銀座仁志川の食パンはどこにもない」
これが「独自」になる訳です。それを私は髙橋社長を通じてお願いしました。
「製パンの教科書では、パン作りの仕込水は弱酸性水が適しているとされている。逆にアルカリイオン水は仕込水には適さない」という基本に則って約50年間、製パン一筋にやってきた山本氏に対し「仕込水はアルカリイオン水で」とは、無茶な要求でした。
山本氏曰く、仕込水としてアルカリイオン水が製パンに適さないとされる理由は、一般的に「生地がダレる為」との事でした。
だから「製パンに適さない、使用すべきでない」と製パンテキストでは書かれている訳です。
しかし私達が求めているのは「独自性」です。
ここから山本氏ら製パン開発メンバー達の苦労が始まりました。
NHK番組でいうところの「プロジェクトX 〜挑戦者たち〜」です。

単に「仕込水にアルカリイオン水を使用」だけでは、「銀座仁志川 食パン」にはなりません。
銀座仁志川独自配合の「ミックス粉」も大きく関わりますし、生産工程での様々なノウハウが加味されてこそ「銀座仁志川 食パン」は出来上がりました。
開発チームは何度も何度もテストベーキングを実施。
彼らが苦労して作り上げた「銀座仁志川 食パン」のノウハウを簡単に開示する訳にはいきませんので詳しく掲載出来ませんが、少しだけ開示すると、生地の状態を見極め、丸目を調整。室温・湿度・捏上温度・終点温度等をデータ化し、安定した仕込みとしてどの時が一番良いか、何度も何度もデータ取りを行ない、試行錯誤を繰り返した末、「銀座仁志川の食パン」は完成しました。

完成後、山本氏は「アルカリイオン水は素材を引き出す力を持っているとは聞いていたけれど、これ程までの結果が得られるとは、取り組む前には想像していなかった」とコメント。
更に山本氏の発言は続きます。
「上品な甘さに仕上がりました。上白糖のような甘ったるい甘さと違い、銀座仁志川特有の上品な甘さです。甘みのあるブランド米を食べると、次も食べたくなりますが、それと同じです。焼成後のクラスト(パンの耳)も、かなり柔らかく仕上がりました。アルカリイオン水で仕込んだ食パンは1日経つと更に甘みが増し、しっとり感も出てきます」との事です。
また山本氏は次のような実験もしていました。
どの仕込水を使ったかを開示せずに、社内外の多くの方々に試食をして貰いました。
仕込水は「通常の水」「アルカリ水」「銀座仁志川が調整したアルカリイオン水」の3種類。
その結果、参加者全員が「銀座仁志川が調整したアルカリイオン水」で仕込んだ食パンを「圧倒的に、これが一番おいしい」と評価し、上品な甘みが良いとの感想が得られたとの事です。

「やった!」
繰り返し繰り返し、何百日も開発チームが挑戦した結果です。

私は山本氏をその日から「山本名人」と呼ぶ事にしました。
それ以降、他の人も山本氏の事を「山本名人」と呼びます。

次回、6月1日に掲載します。

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