代表取締役 湯川 剛

銀座本店のオープン初日は、2時間足らずで早々に「完売」を迎えました。
これが「銀座に志かわ」のデビュー戦です。

あまり「嬉し過ぎる」状況は「好事魔多し」でもある事をこれまでに散々体験している私にとって、緊張をも併せ持った初日でした。慌ただしさが一旦落ち着いた午後、私は何気なく2階に行きました。すると、2階のテーブルの上に食パンがあるではありませんか。
「あれ、どうして食パンがあるのに売らないんだろう」と不思議に思いました。
ただ、整然とした置き方ではない事が引っ掛かりました。
食パンが何故置いてあるのか。私は後になってその理由を知りました。

私が診察予約の都合上、6時過ぎに銀座本店を出て、不在にしていた間の話です。
髙橋社長がこれからオープンを迎える「銀座に志かわの食パン」を目にして激怒した、との事でした。私達が目指す「銀座に志かわの食パン」ではなかった為です。
オーブンから出され、冷却中の食パンを見て髙橋社長が工房長に「これはなんだ。こんな物は商品として出せないじゃないか!」と強く怒ったそうです。
専門用語ですが「ホワイトライン」が薄く、焼き色が全体的に白過ぎた感じでいわゆる「焼きが浅い」という状況です。オーブンから出すのが早過ぎた事が原因でした。
薄い焼き色に美しい「ホワイトライン」が入る食パンではなく、私達が求めている焼き具合になっていませんでした。長年食パン作りを経験した人であっても「過去にない食パン」です。それが「銀座に志かわの食パン」なのです。

私達が求めている「銀座に志かわ食パン」とは、
「絹のようにしっとりした耳、淡雪のような口どけのほんのり甘い食パン」なのです。

そうではない食パンは「銀座に志かわの食パン」ではありません。
髙橋社長は妥協しなかったのです。
もしこの場面でそれを見逃していたならば、これからの展開が変わったかもしれません。
私と違って髙橋社長の雰囲気はいつも穏やかな顔をしています。
報告によると、その時の髙橋社長はその場にいた全員が驚く位、激怒していたとの事です。
私はこの話を聞いた時「よっしゃ!」と強い相棒と出会った事に感謝しました。
最初はそのような出来事があったことを知らず「銀座に志かわらしき食パン」(銀座に志かわが求めている食パンではないからです・・・)がテーブルの上に100本ぐらい置いてある状況を目にしました。「銀座に志かわ」が目指す食パン以外は「銀座に志かわの食パン」ではない、という強い思いがテーブルの上に山積みされていました。

店頭ではお客様が並んで買いに来て頂いています。当日はお客様1人につき1本(2斤)をお渡ししていました。事前予約のお客様にも「当日は渡せなくなった」とバタバタした対応でしたが、その裏でこのようなもう1つの戦いがありました。

私はこの話を聞き感動しました。
妥協なき商品追求であり、全員が真剣勝負で挑んだ初日です。
早々の「完売御礼」は、決して楽した「好事」ではなかったのです。

こうして「銀座に志かわ食パン」はオープン初日を迎えました。

次回、11月1日に掲載します。

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