代表取締役 湯川 剛

「カビらしきもの」との事で、正式な決定が出るまでは対応策として、ビンの蓋と製品の間に空気が触れる事でこのような現象が起こるかもしれないと判断し、出荷時にビンを逆さまにして空気が入らない事で防げるのではないかと考え、全国一斉発売前日の会議で大手乳業の意見を取り入れました。テスト販売で成果が得られ、全国の各店舗から予想を上回る注文が入りました。しかし、結果的にはその時の判断が間違っていました。

私が今でも覚えている場面があります。
5月9日日曜日。私は本社から大阪・天王寺公園までウォーキングをし、さらに3時間ほど歩く予定でした。天王寺公園内にある大阪市立美術館から天王寺動物園へと続く長い石段があります。そこを下りようとした時の事です。業務部長から私に携帯電話が入りました。日曜日の12時過ぎ。このような時の電話は99.9%ネガティブな報告です。私は緊張気味に「はい」と電話に出ました。「○○店でカビが出ました」との報告です。大手乳業会社の意見で、逆さまに商品を梱包すれば問題ないと言っていたにも関わらず、実際には問題が発生したわけです。私は「わかった」と返事をしました。美術館から人通りの少ない通天閣を眼下に見下ろしながら言った事を今でも覚えています。
当時、コロナ禍で通天閣周辺の店舗は全て閉鎖し、通行人もほとんどいませんでした。まるで廃墟のような街並みでした。とにかく「静か」という以外に説明の出来ない風景でしたが、今の私の心の中と何か似ているような気がしました。私は、そんな通天閣下の周辺を少し遅い足取りで歩いていたことを今も覚えています。そして、当日の日記にもそのように書いてあります。
前回、4月23日全国一斉発売、と記載しましたが、これは私の勘違いで誤りです。正しくは、5月17日が本格的発売日です。あと8日間に迫っているわけです。予想を超える注文が入っている中で、これを中止するのか、そして現在試販中の商品をどうするのか。私はウォーキング中に聞いていたラジオも切りました。13時以降のウォーキングは、ただその事だけを考えていました。途中、髙橋社長に電話をしましたが、これといった回答もありません。15時頃、その髙橋社長から電話があり、日本料理「K」の在庫からもカビらしいものが出た、と報告がありました。翌10日に緊急会議を開き、大手乳業の過去の事例に基づき「個別対応」で対応する、という事が本当に通るのか、として私の方から「たった1個に妥協なし」と全品引き上げを会社の対策として発表する事に決めました。
この判断には、全加盟店からの大きな反発を予想していました。もし今回のようにカビ問題が発生しなかったら、計上したかもしれない利益が「販売チャンスロス」となり、全加盟店から問題が発生するのではないか、と先の見えないこの問題に不安がなかったわけではありません。

しかし、結果的には加盟店のオーナーから、むしろ積極的な解決方法等の意見が出ました。特に、副会長の吉村オーナーは親身になって対応してくれました。「商品そのものに問題があるのではなく、常温で販売する事が問題なので、保冷剤等を入れて販売しましょう。幸い、それぞれの工房には冷蔵庫があるのでそれを活用しましょう」と言って頂いた時は、救世主のような気持ちを感じました。
ただ、2店舗のオーナーからは執拗にメールが入り、そのため私は夜中や朝方にその対応をしていました。とにかく、この問題から逃げない、と決め、九州エリアと首都圏エリアのオーナー2名に対しては、どのような罵詈雑言にも前向きに受け止める覚悟を決めました。それが出来たのも、ほとんどのオーナーが協力的であったからです。


次回、10月20日に掲載します。

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