代表取締役 湯川 剛

『スーパーマーケット業界』という特定の市場を得た事によって、それから以降、私は支店の月間トップ賞はもちろんの事、東京本社や他の支店の中でも、トップクラスの成績を出す事が出来るようになりました。外資系企業らしく実力主義は収入だけでなく、昇格までスピーディーに運びました。わずか数ヶ月で5人、10人、30人と部下を持たされ、一つの課をも持たされました。

しかしマネージメントなど、知る由もありません。人を教育するとか、マネージメントするなど、22歳の私にはとても無理な仕事でした。しかも当然ほとんどの人は私よりも年上です。ただ、「一生懸命やる事や問題にぶつかっても逃げない事が大切なんだ」という事は分かっていましたが、それを言葉で知らせるとか、話で分からせるという事が出来なかったのです。そんな私のとっていた『やる気』のマネージメントに代表するものがあります。

もう少し頑張ってもらいたい部下を連れて、大きな病院の待合室に行きます。その待合室に部下を座らせ、私も隣に座ります。「どうして」と部下が尋ねても、「黙って座っていればいい」とそこにじっとしています。

病院では多くの患者さんが行ったり来たりします。中には私や部下の年齢に近い人もいて、車椅子に乗って通ることもあります。1時間程して病院の食堂へ入り、コーヒーを飲みながら「どうや、あの人達は働きたくても働けないんだ。その点、自分達は違う。足が動く、食べたいものも食べられる。何よりも働ける。そうじゃないのか。」と、言葉では伝えきれない事をそのように現場で見せて伝えました。

人と話をする事において、お客様と一対一なら何とかこなせる状態になってきましたが、大勢の前で話をするなど、まだまだ出来ません。仕切られているパーテーションの向こうには小早川先輩の部屋もあり、同じ人数の部下を持っていましたが、話は盛り上がっている様子で羨ましい限りでした。

「勉強しなくては」とだんだん思うようになりました。学生時代に小説も読まなかった私が書店に行くなんて、想像も出来ませんでした。今、私の部屋には3000冊近い本がありますが、スタートは部下を持ったという事が大きな影響をもたらしています。もし私にそういう立場が与えられなければ、本など読まなかったかもしれません。

(次回に続く)

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