代表取締役 湯川 剛

業界日本一に相応しいタレントをテレビCMに起用しようと、宣伝会議が開かれました。
スポーツ選手を起用する事をとりあえず会議の方針としました。しかし選手の成績によってイメージが左右されるようでは困るとの事から、成績に関係なく「ナンバーワンのイメージである」という選手は誰かといいう事になりました。その時誰かが、「アントニオ猪木はどうですか」に全員が思いもしない名前に、一瞬ポカンとした顔でしたが、「アントニオ猪木か・・・それはいいなぁ」という空気が部屋いっぱいに漂いました。

少し間を置いて、広告代理店が「それは多分無理でしょう。たとえ出演料をいくら積んでも無理だと思います。」の一言で、猪木待望の空気が消えそうになりました。同時に「何故?」という疑問が浮かびました。

広告代理店が「無理だ」とする理由は次の通りでした。それは、かつて自動車メーカーからのCM出演をアントニオ猪木が断ったという事で、多分CM嫌いであるだろうという事が広告業界では定説になっている。当然、出演料が高額である事も理由でした。しかし最大の理由はそれではありませんでした。断るだろうという最大の理由は、「何より知名度のない無名な会社のCMに出演する事は有り得ない」というものでした。その説明に全員が納得し落胆しました。私はと言えば、元々その名前が出た時からそれは不可能に近いので落胆はありませんでした。ただ、「我が社に大きな予算があれば出演してもらいたいなぁ〜」と思いました。

私は高校生時代までプロレスを見ていましたが、何としても見たいという程の熱狂的なファンでもなく、一般的な「テレビ観戦をしていた」程度でした。社会人になってからは忙しくて殆どプロレス番組を見る機会もありませんでした。あとで分かる話ですが、タイガーマスク等のプロレス選手が出てかなりの視聴率も取っていたという事です。「アントニオ猪木」という名前も顔も極一般的な認識として知っていた程度です。ですからその名前が出て、一瞬にして消えても心に引っかかるものは余りありませんでした。ただ、宣伝会議の中で「もしアントニオ猪木がリズムタッチのコマーシャルに出たら、これは凄い」「アントニオ猪木なら、ナンバーワンのイメージにピッタリだ」等、アントニオ猪木一色の雰囲気で、結局は具体的な名前が出ないまま次の宣伝会議の議題になり終了しました。

しかし、これが大きな展開になるとは、その時は誰も思っていなかったのです。

(次回に続く)

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