第23回の既報通り、5月9日。私は猪木の実弟啓介さんと猪木を撮り続けた原カメラマン、それにK美術社長と一緒に、東京駅から約1時間足らずのところにある地方都市に向かいしました。
最寄り駅からタクシーで15分程のところに目的地のアトリエはあります。
この日は文字通り五月晴れで、タクシーの窓から見る風景は何となく気持ちを落ち着かせてくれます。こんなところで「アントニオ猪木」のブロンズ像が制作しているのかと感慨深い気持ちになりました。恐らくこの街の人々もあのスーパースターアントニオ猪木のブロンズ像が制作されているとは思わないでしょう。タクシーは清閑な住宅地といっても何か田舎の匂いを感じる建物の前で止まりました。大きな庭には垣根がなく、まるで雑木林の中に家があるような佇まいです。既に啓介さんら3人はこのアトリエを訪ねた経験がある為、タクシーを降りると呼び鈴を鳴らす事もなく、庭を横切ってアトリエに向かいます。
アトリエでは、主である作家の先生が出迎えてくれました。
アトリエの中央に目をやると、思わず「猪木さんだ」と声を上げてしまいそうになる程、闘魂タオルを巻いた上半身の猪木が、そこにいました。皆さんにお見せ出来ない事が残念ですが、粘土で作られた顔や首、胸、背中はアントニオ猪木そのものです。何より一番驚いたのは「目」で、まさに生き写しです。目の奥にビー玉でも入っているかのようなまるで生きている「猪木の目」がありました。しかしそれもすべて粘土で作られているとの事です。数多くの著名人の像を創られた73歳の先生は、特に猪木さんの体つきに気を使ったという事です。アトリエの中には「人体解剖図」や「筋肉の名前としくみ事典」「目で覚える動きの美術解剖学」等の本が猪木のDVDと共に積み重ねて置いてありました。勿論、猪木のいろいろな表情の顔写真がべニア板に貼ってありました。
前回、原カメラマンがアトリエを訪問した際、背中から脇にかけての肉付きの箇所や目の大きさに対して、アドバイスをされたとの事です。
先生やK美術社長の話によると、ここまで来る工程には構想に約1ヵ月を費やし、その後、資料などに1ヵ月、それから粘土での制作に2ヵ月を要したとの事で、ほぼ休みなしで4ヵ月の期間を経たとの事です。「原悦生カメラマンやオカダ・カズチカ選手の協力が無ければ、今の形は無かったと思います」との言葉に目の前にいる猪木の力作がヒシヒシと伝わってきます。
「アントニオ猪木像」は半身像で、高さ1m10cm、横幅1m50cm、奥行は44cmになります。
K美術社長の話によると「像の大きさは猪木先生の11割、すなわち1割増しです。それは一般男性平均身長の12割のサイズになります。また「猪木像」を制作するにあたり池上本願寺の力道山先生の像を参考にしましたが台座を設置した頭部の高さはほぼ同じになります」との説明でした。厳密にいえば1cm程高いとの事です。
私が本日アトリエに来た目的は「原型検査完成確認」の為でした。
K美術社長は私に「これでいいですか」と尋ねられ、私は啓介さんや原カメラマンにも確認した後、「これでいいです。ありがとうございます」と回答しました。
その時に「原型検査完成確認書」が手渡され、サインをする事になりました。
その書面の一部分には「次の工程へ移行を承認します」と書かれていました。
作家の先生にその後の工程の説明を受けました。確認されたならば、この粘土原型から石膏型取りが行なわれ、石膏原型に移行するとの事です。という事はこの粘土原型は当然の事ながら原型を留める事はありません。私からすれば惜しい気持ちですが、それは仕方がありません。
私は持っているスマホで写真をバシャバシャ撮りました。私は原カメラマンに「石膏型取りの場面を写真に収められたらどうですか」と話をしました。長年猪木の写真を撮っている原カメラマンとすれば複雑な気持ちだと思いますが、二度とない瞬間ですのでお勧めしました。数日後にその作業は行なわれるという事で、もし私のスケジュールが許されるならば、その「歴史的瞬間」は撮っておきたいものです。
K社長に最終的なブロンズ像が完成するのはいつ頃かと質問すると「夏の終わりになる」との事で、ここからでも更に3カ月の時間を要するのかと改めてその作品の重さを感じました。
啓介さんの説明では、数日後には總持寺にある「猪木家」のお墓の改装が始まるとの事です。
いよいよ「アントニオ猪木の聖地」に向かって動き出しています。
私はこの日、海外とのオンライン会議がある為、どうしても12時には東京に着かなければなりません。もしそのスケジュールがなければ何時間でもアトリエにいる猪木と話をし、出来れば食事でもしたかったと思いました。
迎えのタクシーがアトリエ前に到着。作家の先生に何度もお願いをし、アトリエを後にしました。
最寄り駅に到着後、僅かな時間があったので私はコンビニで「豆いっぱい大福」とお茶4人分を購入し、乗車。4人はそれぞれ別々の席に座りました。
電車出発から10分程、私は大福を食べながらもう一度粘土の猪木の顔を思い出し、スマホで撮影した写真を見ました。
写真を見ながらふと、猪木ともう一度大福を食べたいなと思いました。
次回、6月1日に掲載予定です。
(「天国の猪木へ」は不定期掲載です)
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